2008/12/27 (Sat) 00:13
これに関連して、経済の話をしてみたいとおもいます。iPodで為替予測ができるかも しれません^^
本ブログの
世界中で財政出動 の回で紹介しましたIIF(国際金融協会)の資料(Global Economic Monitor)で
↓のようなチャートがあります。
これは、
各国の「iPod(ナノ8ギガ)」の価格を比較したもの です。
(08年10月下旬の各国での販売価格をそのときの為替レートでドル換算)
このチャートで言いたいことはどんなことか というと、
例えば、
日本 ではiPodは
売価180ドル (日本のアマゾンでの価格は約17,000円なので、
180ドルで割ると94.4円/ドル。
10月下旬は大体1ドル95円前後というのとあっていますね)
そして
アメリカ では
売価150ドル 。
ここで、
同じものは同じ値段になるはず (
購買力平価 という考え方)と考えれば、
本来の適正な為替レートを見積もることができる 、ということです。
iPodは日本でもアメリカでも同じ値段になるはず。だから為替レートはその方向に動くはず、という考え方で「本来のドル円相場」を見積もってみると
実際のレート95円×(日本でのiPod価格180ドル÷アメリカでのiPod価格150ドル) =「本来のレート」114円 となります。 (IIF資料では「1ドル120円」となっています)
なお、上のチャートでは、 iPod価格の高い国の通貨は割高、低い国は割安と見ることができることになります(この説が正しければ、です)。
日本円を基準に取ると、 米ドルは割安、つまり米ドルはもっと価値が高くなる、つまり円安ドル高になるはず。 逆にアルゼンチン(チャートでiPodの売価が一番高い)の通貨は割高。つまり円高アルゼンチン・ペソ安になるはずだ
ということになります。
しかし、たった一つの商品の価格だけで比べていいの? という話は当然ありますね。
例えば 商品の価格はメーカーと電気屋さんの力関係で変わってきますし、 関税率が違ってたりもします。 為替レート以外の要因でそれぞれの国の事情で値段も違って来るでしょう。
ところで、このIIFのiPod指数は、 前回のIIFの資料でこのチャートは何の価格の違いを示しているのでしょう?とクイズを出してその答えと言う形で掲載しています。
このような形でものの価格を比較するので一番有名なのは、
英国エコノミスト誌のビッグマック指数(Big Mac Index) です。
ビッグマックとは、もちろんおなじみマクドナルドのハンバーガーのことです。
こっちは08年の7月のデータですが、
ビッグマックでは
1ドル=78.4円が妥当なレート 、と計算されています。このときの実際のレートは1ドル=106.8円です。
さて、iPodでは1ドル114円 ビッグマックでは1ドル78.4円 現在の実際のレートは90円 ですので、 とりあえずは、iPodよりビッグマックの方が「当たっている」 と言えるかも知れませんね。
なお、IIF資料では、 Our next mission is to complete the consumption basket of a college freshman by sampling Starbucks Latte on a global basis. とiPod指数の説明を締めくくっていました。ちょっと訳しにくいですが… 「我々の次なる使命は、世界規模でスターバックスのラテの価格を調査して、(iPod、ビッグマックと合わせて)大学1年生の3大消費セット(について購買力平価指数を)完成させることである。」 くらいの意味になりますかね。これはジョークのようですが^^
(上記の話はあくまでも参考情報として。絶対にこうなると言う話ではありません!!)
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2008/12/26 (Fri) 21:41
経済とか財政とか、まったく関係ないですが…
The Asteroids Galaxy Tour というグループのAround the Bend という曲だそうです。
この曲、かっこえー、と思うのは私だけでしょうか?^^
はて、雰囲気からして、イギリスのグループですかね??
2008/12/26 (Fri) 17:14
下の表は、IIF (Institiute of International Finance 国際金融協会) が08年12月18日に発表した資料 (Global Economic Monitor)の一部ですが、
表のタイトルは「Fiscal Expansion Worldwide」 つまり、「世界的な財政拡大」 です。
(↓ちょっと見にくいですが、 クリックすれば拡大できます!) 財政拡大 というのは、 いわゆる景気対策のうち真水部分 (政府が民間に融資する部分の金額ではなく、財政支出を増やしたり、減税する金額)のことです。
この表の
前頁 には
アメリカ の
財政拡大がまる1ページ割かれている ので、
Worldwide は
アメリカ以外の世界の国々 ということになります。
上記資料は
IIFのHP からダウンロードできます。"KEY ISSUES"の"Global Economic Forecasts (.pdf)"です)。
さて、その財政拡大の規模 について、主だった国 について見てみますと:
アメリカ 45兆円 GDP比3.5%
日本 10兆円 GDP比2% (12月20日毎日新聞7面や
19日ロイター では12兆円)
EU 24兆円 GDP比1.5%
中国 55兆円 GDP比8.9%
(1ドル95円とする)
金額でもGDP比でも中国がダントツ で大きくなっています。 その次がアメリカ。GDP比では日本は世界の中で大きい方 ですね。
さて、このような財政拡大 については、財政赤字拡大→財政悪化を心配する声 も少なくありません。たとえば:
今後も
景気の下支えを名目 に、なし崩し的に
財政規律が後退する懸念 は消えていない。
財政健全化に向けた新たな道筋を示さない限り 、
日本を財政破(は)綻(たん)に導いたきっかけ として、今回の予算は
「歴史的」になりかねない 。
(
MSN産経ニュース 2008.12.20 )
なんと、日本はこのまま行くと破綻してしまう そうです。 これはビックリ、どうしましょうか???
いえいえ、そんな心配は一切ありません!!!!!
本ブログで繰り返し書いていますが、・日本政府は日本円建ての借金しかありません ・日本政府とその55%子会社である日銀は日本円をいくらでも発行できます よって、日本政府は破綻=金詰りになることは一切あり得ません。
お金を刷り過ぎて問題になるのはインフレ ですが、日本はこの10年来、インフレではなくデフレが問題 で、インフレ率は世界でも最低水準 。 しかも、原油も穀物も金属もこのところ急速に値下がり しており、いまやアメリカでもインフレよりデフレが問題視されている状態です。WTIの原油価格 は1バレル150ドル くらい行っていましたが、今日現在40ドルを切っています 。
これで、どうやって国が借金で破綻するのでしょうか? 産経のような一流の新聞社には、もっと正確な情報を国民に提供して頂くことを強く望みます。
次に、財政拡大、積極経済は無意味 という見解です。 たとえば竹中平蔵氏 :
そもそも従来、
開放経済の下では財政拡大は大きな効果を持たない ことが知られてきた。
財政で内需を増やしても 、一方で
金利上昇・通貨高・輸出減 というメカニズムが働き、
財政の効果がキャンセルアウトされるため だ。その中で
日本は 、
ロジック(論理)を無視 して
常に財政拡大を指向 してきた
数少ない国 だった。
(
MSN産経 2008.12.22 )
「開放経済」 とは要するに、為替変動相場制で自由貿易をしている場合の経済 です(江戸時代の鎖国経済と正反対の経済 )。
このような財政政策は利かないという話は、竹中さんのお仲間である高橋洋一氏 (霞ヶ関埋蔵金の提唱者)も 著書「日本は財政危機ではない!」p.19で「ノーベル賞を受賞したロバート・マンデルらによって唱えられた理論で世界では常識」 と書いています。
竹中さんも高橋さんも特に日本の90年代を問題にしています 。
公共事業をしまくった割りには景気が良くならず、借金ばかりが残った という具合です。
そしてその理由は、
為替変動相場制のもとでは 財政出動をすると金利が上昇するから
ということですが、下の図を見てください
(出所:日銀)
なんと、その90年代、90年をピークに金利は下がる一方です! 1980年のGDP に対する、1980年-2007年の累積財政赤字の倍数 :
イタリア 6.8倍 日本 1.8倍 (IMF)
つまり、イタリアの方が財政赤字はすさまじかった 、つまり政府の財政出動がすさまじかった のに
2007年 の公的債務/GDP比 は
イタリア 104% 日本 195% (IMF)
と、イタリアの方がずっとマシ です。
その上、1980年台半ば から2000年代半ば にかけての実質平均可処分所得の増加率 : イタリア +20% 日本 +7% (OECD)
で、イタリアの方が財政赤字がずーっと大きかった つまり、日本よりもロジック(論理)を無視 して常に財政拡大を指向 してきたイタリア は、なぜか財政 も国民の実質所得 も日本よりも良い ことになります!
竹中さん や高橋さん が「世界の常識」 といっているノーベル賞のマンデルさんの理論(=開放経済での財政拡大は無意味という理論) は現実とはかけ離れている わけです。
まず、ノーベル賞 をもらっているからと言ってあてにはなりません 。昔、二人のノーベル賞をもらった経済学者 がそのノーベル賞をもらった理論で資金を運用 するLTCM というヘッジファンドを立ち上げましたが、そのファンドが破綻 して大騒ぎ になったのはまだ記憶に新しいですし^^
大体理論としても無理 があります。政府が財政拡大→景気対策で金利上昇 、というのは、日銀 (中央銀行)がその状況で何もしなかった場合の話 でしかありません。日銀は資金供給を増やして金利を下げる ことができるのですから。そもそもそれこそが日銀法第2条で定められている日銀の目的 です。
竹中さんや高橋さんの構造改革、官僚支配の打破 といったことへの思い入れ というのは理解できなくはありません。
しかし、
もっと上記のような現実を見据えた上 で、 そして、国民の実際の生活実感を見据えた上 で、
国民が実際に生活に困らない形での主義主張 を展開していただきたいものです。
だいたい、本当に竹中さんや高橋さん が言うように財政出動が意味がない のなら、このお二人は日本国内だけではなく、世界中で「君たち、財政拡大なんかしたら経済は破綻するよー!」 と説いて回らなければいけません 。 だって、 一番上の表のように世界中で大規模な財政出動を計画中ですから、今すぐオバマ君や胡錦涛君に止めさせなければ世界中が破綻することになりますよね!?
逆に、
過去の事実、例えばイタリアの事例に注目すればどうでしょうか? この観点から見ると、世界中が財政出動をすれば、どうなると考えらるでしょうか?? イタリアは日本よりもずっと大きな財政出動をしたのに、破綻どころか、財政状態も国民の所得の上昇率も日本よりも良いのです!←は、私の家の近所にある布引の滝(神戸市)です。 この滝、古くからたくさんの歌人に詠まれています。とここまでは脱線ですが、その歌の中に今のご時世によくよくぴったり来てしまう嘆き系の歌 があります:
我が世をば 今日か明日かと 待つ甲斐の 涙の瀧と いづれ高けむ (伊勢物語と新古今集にも収められている中納言・在原行平の作)
私の時代が来るのが、今日か明日かと待つことの意味があるのかどうかと嘆くこの涙と、この布引の滝のどちらの高さが高いだろうか という意味です。
派遣労働者の大量解雇、学生の内定取り消し…
この年の瀬、上の歌のような心境に陥らざるを得なくなった人々がどれだけ増えたでしょうか。与党も野党も、お前たちの案はここがダメだ、とか、お前たちの案は俺たちの案と似ているから意味がない、とか言い争ってないで、もっと柔軟に、もっと迅速に、いま起きている事態に対処して頂きたいものです。
とにもかくにも、
国の借金は全く気にする必要のないものなのですから。
2008/12/20 (Sat) 11:32
3日前(08年12月17日)、 FRBが 米史上初「ゼロ金利」決定と、「量的緩和」の検討 を発表しました。
量的緩和 :短期金利がゼロになっても、さらに資金供給を増やすこと 今回のFRBについては 「さらに米政府系住宅金融機関(GSE)が発行した債券の買い 取り拡大、長期国債の買い入れを検討する」(上記リンク) というのが、かつて日銀がやった「量的緩和」に相当します。 それを「検討する」と発表したわけです。
それに続き、日銀 も、
の決定 の発表をしました。
で、このようなFRB や日銀 の金融政策の意義 ですが、もちろん、金融危機や世界同時不況で「金詰り」になっているところに資金を供給して経済が破綻しないようにすることが大きな目的 です。
これに加えて、デフレ対策 の意味もあります。
前にも書きましたように、
それに、これも前に書きましたが、
・バーナンキFRB議長 が何年か前に日本のデフレ対策 として
と言っていました。
「ゼロ金利」 や「量的緩和」 は国債買い入れなどにより資金供給を増やすこと ですから、デフレの克服 、もっと言えばデフレ不況の克服 のための、手段の一つ であるということになります。そしてそれは、政府による財政出動とセット でより効果的になる わけです。
以前の日銀による「ゼロ金利」「量的緩和」 では、日本政府 は財政出動どころか支出を絞っていました のでデフレは脱却できていません でした。 やはりバーナンキさんの言うように政府の財政出動とセットであることが大事 だと思われます。
となると、バーナンキ氏 がかつて日本のデフレ解消法として提案 していた「通貨当局と政府の大規模な共同行動」 が、デフレになりつつあるアメリカで実際に行われようとしている 、ということになります。
さて、日本。今回の日銀の利下げ のところで、ひとつの目玉 は、資金供給の手段 として新たにCP(コマーシャルペーパー)を買い入れる(=買いオペ)ことを決めたこと だそうです。
CPというのは、金融機関や大企業が資金調達、まあ、借金をするときに発行する借用証書みたいなものと、昨夜のNHKの9時からのニュースでは解説していました。
そして、日銀がこのCPを買うのは、本来は「禁じ手」 とのこと。
なぜなら、「日銀がCPのような値下がりリスクのある資産を買ったら、その資産が値下がりしたときは、中央銀行としての日銀の信用が失われて、うんたらかんたら…」 とにかく、大変なことになりますから 、というような説明でした。
究極は、「日銀が破綻したらどうするねん!」 ということなのでしょうが、ちょっと待ってください!!!
破綻 ってなんでしょう? 借金を返せなくなって、首が回らなくなること です。
日銀法第1条 で
「
日本銀行は 、我が国の中央銀行として、
銀行券を発行する とともに、通貨及び金融の調節を行うことを
目的 とする。」
と定められているように、
日銀は、「銀行券」=お札を発行するのが「目的」の組織 です。
お札、つまり、お金を発行するのです。 お金を発行することが「目的」の組織が、なんで金詰りになるのでしょうか?????つまり、日銀が破綻することは 、余程の天変地異が起きたり、宇宙人が攻めて来たりでもしない限り、あり得ません 。
ただ、そのNHKニュースの中では、 「アメリカ では政府が保証 することでリスクが生じない ようにしています。日本 でもCPのようなリスクのあるもの は政府の保証をつけるなどの工夫が必要 です」 というようなことも言っていました。
はて、以前NHKでも国は財政危機だ というようなニュアンスの番組をしていたような気がするのですが…
財政危機の国が保証しても意味あるんですかい?
と思わず突っ込みたくなりました 。
そもそも、日銀は政府の55%子会社 ですので、本質的には政府と日銀は一心同体 です(日銀は政府と独立して判断するので厳密には「一心」ではないですね)。
そして、政府は日銀と一体で「通貨発行権」を持っている わけです。(ちなみに、お札は日銀 ですが、1円玉から500円玉までのコインは政府が直接発行 しています)
とにかく、
政府や日銀は「破綻しないぞ」と決めてその通りに動けば、決して破綻することはありません。 だって、
政府も日銀も金詰りになりようがないのですから。外貨建ての借金をしていない限り 、ですが。
そして、以前にも書きましたが、インフレにならない限り、国の借金はなんの問題もありません 。そして、日本は10年以上も前からずっとデフレ ですし、いまもデフレ です。大事なのは、国の借金ではなくて、国民の実質所得が増えること です。
とにもかくにも、今回の日銀の思い切った判断は高く評価して良い と思われます。
そして、この日銀の利下げ などの話と時を同じく して、政府の方 でも、以下のような「財政出動」を正式決定 しています。
財政措置(=真水) で12兆円 はかなりの規模 です。
ということで、日本でもバーナンキ路線
「通貨当局(日銀) と財政当局(政府) がほぼ同時期に 、より大規模な共同行動を取ること 」
がようやく実現しそうです。 (以前の日銀の「ゼロ金利」や「量的緩和」のときは、政府は支出を減らしていましたので、片方だけでした。しかも、日銀はインフレ率がマイナスからようやくゼロになったとたんに、あっさりやめてしまったのですが。)
ただ、アメリカでは次のオバマ民主党政権は上下両院ともに与党が過半数を握っている野に対し、日本では衆参のねじれその他もろもろの事情 がありますので、「政府による財政出動」 の方はまたどうなるか、かなり不透明 ですが…
誰が、どんな政党が政権を運営するにせよ、 この急速に悪化する経済情勢、 派遣切りなどの雇用問題、 以前から問題になっている医療崩壊、介護難民問題その他の問題 について、 早急に大胆な予算措置を実行するようでなくてはなりません。
2008/12/16 (Tue) 16:09
ちょっと政府の財政が赤字になるというと、すぐこんな感じの記事が新聞の一面を飾ります:…新規国債発行額 は4年ぶりに30兆円の大台を大きく超える見込み だ。…
…「基礎的財政収支 (プライマリーバランス、PB)」は09年度予算で13兆円程度の赤字 を記録。…
…小泉政権で策定した「骨太の方針06」 以降、政府は「財政再建の一里塚」として国・地方のプライマリーバランス を11年度に黒字化する目標 を掲げてきたが、達成は極めて困難な情勢 となり、財政健全化路線の大幅な後退が懸念 される。…
---引用終り---
財政赤字が拡大だ! 国債の新規発行が30兆円を超える!
そして、
財政健全化路線の後退が心配だ!
国の財政 についてのマスコミの論調は大抵こんな感じ です。
しかし、
そんな心配は全く不要です。以下、説明してゆきます。ではアメリカの財政赤字は特に問題ない と書きましたが、これは日本でも同じ です。
アメリカ政府は 米ドル建ての借金、つまり
自国通貨建ての借金しかありません が、
日本政府も日本円建て=自国通貨建ての借金しかありません。そして、財政破綻 というのは借金が返せなくなる状態 ですが、日本円は政府の55%子会社である日銀がいくらでも発行できる ので、政府が借金を返せなくなる(というよりは、金詰りになる)ようなことはあり得ません。
また、財政赤字が拡大 したり、国の借金が増える ことで困るのは悪性のインフレ ですが、日本の消費者物価指数 は
のように、
8月をピークに下落 に転じています。
ということで、このことだけでも
国の借金は問題があるとはいえない のですが、
以下、もう少し国の借金について見て行きましょう。・
上のグラフ では
G7各国の借金の増え方 が示されています。
・その増え方を
一つの基準で比較したい ために、
各国の1980年のGDPに対して 政府の借金が何倍か、という形で示し ています。
これを見ると、まず分かることは、
G7各国は、基本的に借金が増えているということです。
借金が増えているのは、別に日本だけではありません!!!しかし、日本の借金の増え方 は確かにG7の中 では高い方 ですが、イタリアよりはマシ ですね。
すると、イタリアの財政は余程日本より悪いのか というと…
2007年の公的債務/GDP比 イギリス43% 米国61% ドイツ63% フランス64% カナダ68%イタリア104% 日本195% (International Monetary Fund, World Economic Outlook Database, April 2008 データから計算。計算式:一般政府債務÷GDP)
ということで、公的債務のGDP比で見た財政 は、イタリアは日本よりもずっとまし です。
ところで、日本の財政赤字はそんなにひどい のでしょうか?
1980年のGDP に対する、1980年-2007年の累積財政赤字の倍数 : ドイツ1.3倍 カナダ1.6倍日本1.8倍 米国2.1倍 英国2.2倍 フランス2.2倍イタリア6.8倍 (International Monetary Fund, World Economic Outlook Database, April 2008 から計算。 計算式:「1980年から2007年の財政赤字の合計額÷1980年のGDP」)
これを見ると、日本はG7の中では財政赤字はむしろ小さい のです。 日本と比べてイタリアの財政赤字はかなり大きい ですね。
でも、上で見たように、イタリアの公的債務/GDP比は日本よりもずっと小さい。 ということは、イタリアでは、政府が無理やりインフレに持っていって、政府の借金をごまかしているのではないか? と言う疑問 も湧いてくるでしょう。
しかし、インフレ、悪性のインフレが問題 になる、というのはどういう意味 でしょうか?
悪性のインフレが問題 になるのは、一般国民の所得 がインフレのため見かけ上は増えている が、インフレの水増し分を除く と、逆に減って いて、実質的に国民生活が悪化 してしまう ためです。
じゃあ、イタリア では国民の実質所得、インフレによる水増し分を除いた所得は減ったか 、というと全くそんなこともありません :
1980年台半ば から2000年代半ば にかけての実質平均可処分所得の増加率 :英国 +45% 米国 +25% ドイツ +22%イタリア +20% フランス +19% カナダ +14%日本 +7% (OECDデータから計算。real mean income, current definition)
1980年以降の27年間で、イタリア人 の実質所得 は20%も増えています! その一方で、日本人 の実質所得 は7%しか増えていません!!
財政赤字はイタリアよりもずーっと少ないにもかかわらずです!!!!
国の借金が日本以上 に増えているイタリア は、
日本よりも 債務/GDP比は健全 。
日本より も累積財政赤字 が大きい米国、英国、フランス、イタリア は、
日本よりも 債務/GDP比は健全 。 かつ、実質平均可処分所得の増加率 は日本の倍以上 (英国は6倍以上!!)。
つまり、国の借金を問題にする のも、財政赤字を問題にする のも、プライマリーバランスがどうのこうの言う のも、全くのナンセンスです!!
上記に示したデータからは少なくとも、財政赤字を小さくしても、 債務/GDP比が小さくなる(=財政が健全化する)とは、まったく言えない
ですし、
国民の実質所得(インフレによる水増しを除いた所得)が増えるなんてことも、 まったく言えない
のです。
ということで、
日本国民にとって必要なのは、 ×国の借金を減らそうとするマヌケな政府ではなく、
○国民の実質所得を増やそうとする政府だと思うのですが、いかがでしょうか?
日本よりも累積財政赤字が大きいイタリアでは、 財政は日本よりも健全だし、国民の実質所得も増えている。 これは紛れもない事実です。冒頭の引用記事にありました「財政健全化路線の大幅な後退」 は「懸念」すべき ことでは決してなく 、大いに「歓迎」すべき ことなのです。
中央官僚や大企業経営者 から
ワーキングプアやネットカフェ難民 まで、
「財政健全化」や「プライマリーバランス黒字化」で得をする日本国民は、だれ一人として存在しません!
2008/12/14 (Sun) 20:03
(前回の続き) 今回は、オバマ政権が政策を遂行する上で、大きな壁になるかも知れない2つの問題、財政赤字 と共和党との協力 についてです。
1.財政赤字 さて、そもそも
財政赤字が問題になる のは、
財政赤字が大きくなると国の財政が破綻するから 、ということになります。
ところで、国の財政が破綻する というのはどういう意味 でしょうか? 破綻とは 、平たく言えば借金が返せなくなって首が回らなくなること ですが、
アメリカ政府の借金は全て米ドル建て です。
そして、米ドルはFRBがいくらでも発行できます。
FRBが国債を購入するなどしてアメリカ政府に資金を供給し続ければ、 アメリカ政府は借金を返せなくなることはなく、 よって、
アメリカ政府が破綻することは原理的にあり得ません。
ここで、
問題になるのは、 FRBが際限なく米ドル札を印刷しまくると、 悪性のインフレになって
経済が混乱してしまうこと ですが、
これは、一時は140ドルを越していた原油(WTI Crude 1バレル)の価格がいまや46ドル(12月12日)になるなど、コモディティ (原油や金属や穀物などの商品全般)の価格が下落している ことも大きな要因です。
下に、
ロイターのCRB指数 (コモディティ全般の価格動向を示す指数)を示しますが、
ほぼ3年ぶりの安値 となっています。
今や、
アメリカでも問題はインフレよりはむしろデフレです。
デフレの処方箋 は、バーナンキFRB議長 が長年デフレ が続いている日本に対して提言 したように
が、そこでその懸念を解消するため に、「教育と科学技術とエネルギー的独立への投資」という方面に重点的に積極財政 するわけです。 このような方面に政府がお金を使うことは、国全体の生産性を高め、モノやサービスの供給力を高めるので、物価上昇を抑える効果が期待できます。
政府が支出を増やす積極財政をすれば、 まず即効性のある景気対策・雇用対策 となりますが、 この積極財政を生産性を高める方面に集中 することで、同時に将来のインフレ懸念を払拭する ことも狙えるというわけです。
これぞ、「第三の道」的な経済政策の真骨頂 と言えるでしょう。
別の見方をすれば、 金融危機による信用収縮などなどにより、投機マネーがしぼみ、 消費が落ち込むなどした結果、物価は下がる傾向にあるため、 アメリカ政府は逆に積極財政をやり易い状態にある
→景気対策をしながら、国全体の構造転換を行いやすい状態にある
と言え、
現在のアメリカは、 まさにオバマ氏の"Change"がやり易い状況にある
と言えるのかも知れません。
2.共和党との協力 前回、
「クリントン元大統領は保守派勢力(≒共和党)とのイデオロギー的対立を乗り越えられなかった」 のように書きました。
クリントン政権 (民主党)は93年から2000年の8年間だったのですが、
最初の2年を除くと、議会は上下院が両方とも共和党が過半数というねじれ状態が続いた のでした。
それゆえに、「クリントンは 彼の政治要綱の中核をなすいくつかの要素--国民皆保険制度や、教育と職業訓練への積極投資 --を放棄せざるをえなくなった 」(オバマ氏"合衆国再生")のようになるわけです。 クリントン時代に民主党が議会で過半数を取れなかった大きな原因 としては、保守派 (≒共和党)によるクリントン氏への個人的な「道徳性」への攻撃 が挙げられるようです。 "合衆国再生"によれば、「クリントンの政策に過激なところはほとんどなくても、彼の一代記(マリファナ体験、…、クッキーを焼かない職業婦人、そして何より性行為)は保守派の基盤強化にもってこいの材料だった」 という具合です。 (「性行為」というのは、クリントン氏が大統領就任前にいた愛人の問題とか、在任中のモニカ・ルインスキーとの不倫騒動のこと)
オバマさんいわくは、クリントンさんの政策は良かったし、国民からの支持も大きかった のだけど、彼の自由奔放なキャラが保守派からの格好の攻撃材料(保守派からすればイデオロギー的に、あるいは、生理的に嫌いな材料)になったために頓挫しちゃいました 、ということのようです。
さて、オバマ政権発足に当たっては 、クリントン政権の3年目以降と違い、上下院とも民主党が過半数を占めている という非常に有利な状況 にあります。
ここで、注目すべきは、オバマ氏の類まれなる柔軟性 というか、フトコロの広さ です。 たとえば、自身も奥さんも弁護士なのに「この国で弁護士の数が減り、技術者の数が増えることを願っている。」 ("合衆国再生")と言ってのけ たり、 民主党の予備選であれだけ激しくやりあったヒラリー・クリントン女史を自分の政権の国務長官に指名 したり。
オバマ氏 は、クリントン元大統領と同様、若い頃にはマリファナ を吸い、更にはコカイン までやっていたのですが、これは選挙前から公表 していましたので、今さら攻撃材料にはなり得ない でしょう。 オバマ氏の奥さんはヒラリーさんと違ってクッキーを焼くのかどうかは分かりませんが、「共和党の国防長官の留任を要請」という歴史に残る柔軟さを示したオバマ氏は 、あとは女性スキャンダルさえなければ、上下院とも与党が過半数を占める中、相当スムーズに政権運営を行える可能性が高い と言えるでしょう。
ということですので、
オバマ政権は、 1.財政は問題ではない(悪性インフレの懸念が極めて小さいので) 2.共和党との協力にもとりあえず支障はなさそうであるので、
大胆な積極財政(生産性を高めるものを中心とした積極財政)をスムーズに実行に移すことができ、それゆえに、
かなり短期間のうちに不況を克服できるのではなかろうか…私は、現時点ではそのように予測します。
2008/12/13 (Sat) 19:01
次期アメリカ大統領オバマ氏の政策はどのようなものになるか?
氏が著書"The AUDACITY of HOPE 合衆国再生-大いなる希望を抱いて" の中で引用している次のエイブラハム・リンカーンの言葉 に凝縮されているように思われます:
「政府が介入するのは個人や民間では政府ほどうまく行えないことだけでいい」
政府が何もしなくても良い (=新自由主義)わけでもないし、何から何まで面倒を見るのが良い (=福祉偏重主義)わけでもない。 つまり、前回詳しく紹介しました英国ブレア労働党政権と同じく「第三の道」 のアプローチです。
「自由市場と競争と起業家精神は正しいことだと信じている。」 とする一方で、「富裕層と権力者に有利に働く政策に怒りを覚え、政府にはすべての人に広くチャンスを与えるという重要な役割があると主張」 しています。
この政治姿勢は、 「(ビル・クリントン元大統領は)政府による財政投入と規制は、しかるべく計画すれば、経済成長の阻害要因にならず大切な養分になる と理解していたし、どうすれば市場原則と財政規律が社会正義を促がせるかも理解していた。そして、貧困と戦うには社会の責任だけでなく個人の責任が必要であることに、彼は気が付いた。クリントンの<第三の道>は歩み寄りを超越したものだった。国民の本当の望み、特定のイデオロギーに固執しない本質的な声を、クリントンは活用した。 」 というクリントン民主党政権の姿勢を、オバマ政権は 基本的に、いま流行の言葉を用いれば、"踏襲"する ものと考えて良いでしょう。
そして、 「ブッシュ政権と連邦議会の同盟者は明確な統治哲学もないまま、保守革命をその論理的帰結へ押しやることで対応した。いっそう税を減らし、いっそう規制を減らし、いっそう社会福祉計画を縮小することで。…コスト削減と政府の縮小だけではアメリカは中国やインドとは競争できない。 」 とブッシュ共和党政権の新自由主義的な路線を批判 し、
その競争力を高める策 として、 「答えをすべて手にしているようなふりをする気はない」 とオバマ氏らしく過度の期待を読者に持たせないようにした上で、 「ただし、わが国がこのところ陥っている政治的な閉塞状態から抜け出るための政策はいくつか例示できる。 グローバル経済のなかでアメリカの競争力を高める投資 の話から始めよう。まずは、教育と科学技術とエネルギー的独立への投資 からだ。」 のように提言しています。
"合衆国再生"は2006年に出版 されたものなのですが、マスコミ報道で断片的に伝わってくるオバマ氏の政権構想は基本的にはこの著作の内容となんら変わらない ように思われます。そして、上記のような政策が着実に実施されてゆけば、米国は比較的短期間に不況を脱却し、かつ、再び経済成長軌道に戻ってゆけるようにも思われます。
ここで、その「政策が着実に実施」の障害 になるのは、一つは財政赤字の問題 、もう一つはクリントン政権が乗り越えることのできなかった保守派勢力 (≒共和党)とのイデオロギー的対立 の問題であると考えられます。 次回はこの二つの問題について 、です。
#ところで、オバマさんのコスト削減と政府の縮小だけでは アメリカ は中国やインドとは競争できない。 というブッシュ新自由主義政権への批判を、仮にコスト削減と政府の縮小だけでは 日本 は中国やインドとは競争できない とする"小泉・竹中改革"への批判に置き換えた場合、日本の構造改革派の皆さんはどのように反論するのでしょうかね??^^
2008/12/10 (Wed) 19:44
(前回からの続き)
前回はブレア政権が登場するまでの英国経済政策を見てきました。 サッチャー時代は、経済成長率だけをみれば一定の成果を挙げたと言えますが、一方で社会の安定は犠牲にされていたと言えます。
また、もう少し突っ込んだ話をしますと、サッチャー時代、実は生産性が向上したとは言えない ようです。
(データ出典/ 政府支出増加率:Bank of England(BOE) それ以外:Office for National Statistics(ONS))
前回、高失業率状態が続いて選挙に負けそうなため、大追加予算で景気対策をした、と書きました。上のグラフをみると、その景気対策の効果は失業率の低下という点で顕著に現れたようです。 しかし、同じく上のグラフをみると、失業率の低下と入れ替わりにインフレ率が高まっている 様子が分かります。 景気対策により、失業率低下→消費が旺盛になった(需要の増加)ことにたいし、生産供給が追いつかなかったために物価が上昇した、と考えられるのです。つまり、生産性は高まっていなかったのです(前回書いていませんでしたが、サッチャー政権下では、大学予算大幅カットによる科学技術進歩の停滞や、製造業は軽視し金融業を重視する政策により製造業が没落したため、生産供給力の低下を招いたようです)。 もし、サッチャー政権の目的が国全体の生産性の向上にあったのなら、サッチャー政権はその目的を果たせずじまいであったといえます。 そして、サッチャーのあとに続く同じく保守党のメージャー政権では、インフレ率を抑える政策(高金利政策など)でインフレを抑える一方、再び失業率を高めてしまいました。17年続いた保守党政権では失業率とインフレ率のトレードオフの関係は解消できなかった のです。 つまり、ブレア政権が登場するまで は、 ・厚い福祉政策をやれば失業率が低いなど社会的公正や安定は保てるが、国全体として沈 滞気味になりがち。 かといって、 ・サッチャーのような反福祉主義では、国全体として勢いは出たけれど、社会は安定さを 失ってしまった。 というような、あちらを立てればこちらが立たずという状況 です。
ということで、前置きが長くなりましたが、ここで「第三の道」 を掲げるブレア政権の登場となります。 トニー・ブレアの政治のあり方に重要な影響を与えたとされる社会学者、アンソニー・ギデンズは次のようなことを著書「第三の道 The Third Way」(日本語版:日本経済新聞出版社)p.116で述べています。
新しい政治の第一のモットーは、「権利は必ず責任を伴う」 である。 市民をはじめとする各主体に対して、弱者保護を含めて、政府は様々な責任を負っている。しかし、旧式の社会民主主義は、無条件に権利を要求する傾きが強かった。個人主義が浸透するにつれて、個人の権利に義務を伴わせる必要性が高まった。 たとえば、失業手当には、積極的に職探しをする義務が伴わなければならない。福祉制度が積極的な求職活動を妨げないようにするのは、政府の責務である。 「権利は必ず責任を伴う」というモットーは福祉の受給者だけではなく、万人が遵守すべき倫理原則でなければならない。
つまり、旧来の福祉重視路線はアメばかりに、サッチャーのような新自由主義ではムチばかりに片寄っていた が、「第三の道」 ではアメとムチの両方を使いこなすことが、政治のあるべき姿 であるとしているのです。
この考え方に従い、ブレア政権では失業手当は、実際に就職活動に「努力」している場合にだけ給付する、求職者給付(Jobseeker's Allowance)を実施しました。 これは2週間に一度は面接をして、本当に就職活動をしているのかしっかりチェックしたり、一方できめ細かいアドバイスも受けられるというものだそうです(「ブレア時代のイギリス」参照)。ほったらかしでもないし、甘やかしでもない、というわけです(障害者への手当てはまた別です。念のため)。
このような施策は「労働などを通じて社会に貢献しようと努力している人には国全体として報いましょう」という思想の表れ でもあるようです。
その文脈の中で、ブレア労働党政権 では「子育て」も社会貢献 と捉え、相当に手厚い税還付や児童手当の給付を実施 しています。 その具体的内容を「ブレア時代のイギリス」p.31から一部ピックアップすると、低所得者で片親の場合年31万9千円、保育所サービスを利用している労働者には最大で週3万5千円の税還付。さらに16歳以下の子供すべて、中等教育の学校に通う19歳以下の若者、学校を卒業したのち職業訓練を受けている16、17歳の若者を対象とした児童手当が、第一子は週3千4百円、第二子以下は週2千3百円が支給される(上記金額は全て1ポンド200円として換算)、と言った具合です。
もちろん、この子育て支援は、子供の教育機会の均等化にもつながり、低所得層の家庭に生まれた潜在的な有能な人材を埋もれさせないという効果も期待できる わけです。
逆に言えば、なんでも「市場原理」に任せて貧困問題を放っておけば、結局は国全体の長期的な生産性は損なわれる ことが考えられます。 それゆえに、市場原理(=民間)のみに任せていては足りないところを政府が補完し、これによって国全体としての効率を良くする。これも「第三の道」の考え方です。ビジネスでよく使われる用語を借りると、国全体での「全体最適」を図ろうとするのが「第三の道」の政治のあり方 と言えるでしょう。 さて、「足りていないところを政府が補完」ということは、場合によっては政府が大きくなる ことを意味します。 ここで、再びブレア「第三の道」の理論的支柱、アンソニー・ギデンズ氏に登場していただきましょう。氏は行政の効率化 について、次のように述べています:
政府が上から下まで不信を買う理由の一つは、政府が非効率な厄介ものだから である。企業組織が迅速かつ柔軟に環境変化に対応する世界では、どうしても政府は後れをとりがちである。要するに、「お役所的」の代名詞でもある「官僚制」は、政府を指し示す言葉にほかならない。 政府のリストラは、 「より安い費用でより大きな効果を」という生態学の原則に従うべきであって、単なる政府のダウンサイジングではない 。それは、政府のやることを質・量ともに充実させること だと理解されなければなるまい。ほとんどの国の政府は、目標管理、実効性のある監査、柔軟な意思決定機構、従業員の参加の拡充等々、企業の秀でた行動様式から学ぶ点が今なお多い 。…(以上「第三の道」p.130)
第三の道は (中略)政府と国家を効率的で迅速的なものにすることを目指している 。こうした目標は、国家制度を市場ないし擬似市場に置き換えることによってではなく、構造改革によって達成されるべきである。近年、多くの営利企業は自らを改革してきたが、それは自らを市場のようにすることによってそうしたのではない。ほとんどの効率的な企業は、官僚制から脱却しており、諸基準のベンチマーキング (=自分の会社の効率性を改善するために、先進的なライバル会社の生産方式やビジネス慣行を研究すること)を追求し、組織の下位レベルに多くの自律的な意思決定権を与えている 。政府は それ自身の諸機関の内部で同様な改革を成し遂げるように努力すべきである 。 公営機関に新しい命を吹き込む唯一の方法はそれらを民営化することである、と主張することは 、ときには民営化が必要な場合もあるとはいえ、大きな誤りである 。…(以上「第三の道とその批判」p.68)
「単なる政府のダウンサイジング」 や
「公営機関に新しい命を吹き込む唯一の方法は…民営化すること」 をやってしまった
日本の構造改革派による「構造改革」 と、
「政府のやることを質・量ともに充実させる」という意味での「構造改革」を実践した英国 、その結果は下の表に現れています:
なお、95年→05年の政府支出の増減率は
英国:+20% (BOE)、日本:-10% (内閣府)
でした。
つまり、
日本では公務員も政府支出も減らし、これで国民の平均所得は減少、貧困率 (大きいほど格差が大きい)
も悪化、さらに公的債務/GDP比でみた財政も悪化 しました。
英国では全部その逆で、政府支出は増加する一方で所得も格差も財政も全て改善 されています。
日本は政府の質も量も悪化し、英国では逆に質も量も充実した ということになります。
日本 では所得の低下だけでなく、
地域医療崩壊 (たとえば2008年3月には北海道室蘭市の救急救命センターに指定されていた病院が、同年8月には千葉県銚子市の市立病院が閉鎖に追い込まれています)のような事態まで起きていますが、
英国 ではサッチャー以降荒廃した医療現場を修復するために
「医療予算が毎年10%以上増額され、医療サービスの改善が急ピッチで進んだ」 (「ブレア時代のイギリス」)のです。
この医療サービスについても、たとえばブレア政権発足当初のように「手術平均6ヶ月待ち」のような状態ではその6ヶ月間、単純に考えると患者さんは思い切り良く働ける状態ではないわけですから、経済的な観点、国全体の生産性の観点から考えると、効率の良し悪し、全体最適という観点から、やはり国家は適切に補完すべきと言えるでしょう(倫理的な観点からも、もちろん重要です!)。
さて、最後にサッチャー時代とブレア時代の経済成長率と政府支出増加率を比べておきましょう。 ・実質経済成長率は サッチャー時代:平均2.6% ブレア時代 :平均2.8% (ONSデータから計算)
・政府支出のインフレ率を割り引いたあとの年平均増加率は以下の通りです。 サッチャー時代:平均1.8% ブレア時代 :平均4.1% (BOEのデータから計算。ただし政府支出=政府消費+政府投資)
ブレア時代の英国はサッチャー時代と比べて政府支出の増加率も大きいですし、公務員も増やし (サッチャー時代はデータはありませんが、メージャー政権時代は約60万人の減少)ましたが、格差是正、医療の充実などを行いながら、サッチャー時代と同等以上の経済成長をも同時に達成 しました。しかも、上の表で見たように財政の悪化を伴わず です。
「第三の道」の、いわば「やる気を引き出す福祉」、それに「政府の質と量の充実」により、社会全体の生産性が高まったから 、と言えるのかも知れません。ブレア政権になってようやく失業率とインフレ率の両方が同時に低下 しました。
これからの日本の政治を考える時に、多いに参考にすべき ではないでしょうか?
さて、次回はいよいよオバマ政権についてです。
2008/12/09 (Tue) 12:58
前回の記事で「オバマ政権も『第三の道』で行きそう」と書きました。
ということで、「第三の道」 の説明をしたいと思うのですが、今回はまず、「第三の道」ブレア政権が登場するまでの英国の状況 を見ておきたいと思います。
イギリスでは、サッチャー政権(保守党)発足以前、労働党であれ、保守党であれ福祉偏重の政策を採る政権が続き、失業率は低いものの、生産性が低く、慢性的にインフレで、国全体に活気がない状態であった 、とされています(「英国病」 )。 そこへ、改革を掲げるサッチャー政権 が登場しました。
サッチャー政権の政策 は例えばこんな具合です:
・反福祉主義 。「悔しかったら頑張りなさい」。障害者福祉を除けば、福祉予算 はほとんど容赦なくカット。 ・それとは逆に、軍備拡張 。対ソ連強硬路線。とにかく共産主義・社会主義が大嫌い。 ・国営企業への補助金削減、民営化 。 ・民間企業活動を活性化するための資本家減税 (法人減税など)と、富裕層の所得減 税 。 ・支出税(消費税)増税。つまり、低所得層の税負担増
(上記内容は、森嶋通夫著「サッチャー時代のイギリス」(岩波文庫)を参考に しています)
一言でいえば、新自由主義的な政策でした。 この結果は、 ・実質経済成長率は 70年代:平均1.5% 80年代:平均2.6% 90年代:平均2.5% (National Office for Statisticsデータから計算) サッチャーの在任期間は1979年-1990年でほぼ80年代=サッチャー時代ということ で、これだけをみると、サッチャー時代は、70年代に比べてそれなりに勢いがあった とみることができます。 (と言っても、70年代も実質成長率はプラスであったし、失業率も低かったので、ま ったくダメだったということでもないのですが。) しかし、 ・インフレ率の低下 をもたらしたものの、失業率はそれまでの5%台から10%台に増加 してそのまま高止まり でした(ただし、86年の選挙ではさすがに国民も高失業率に 嫌気がさしてサッチャーは負けそうになり、選挙向けに大規模な景気対策--上記の 森嶋通夫氏の言葉を借りると「合法的買収」のための「教育、社会保障、住宅建設等 への大追加予算」を実施しました--つまり、サッチャー政権は、86年以降、事実上 「新自由主義」を放棄した と言えます)。 山口二郎著「ブレア時代のイギリス」(岩波文庫)によれば、「若年層の長期失業者 も増加し、それはそのまま犯罪の増加という形で社会に跳ね返った」 とのことです。 ・反福祉主義は医療費の大幅カット も含んでおり、医療サービスの質は大幅に低下しま した。例えば、前出の「ブレア時代のイギリス」によれば、「手術(を受けるま で)半年以上も順番待ちをするということが常態化した」 「ブレア政権発足の時、 イギリスの医療サービスの水準はポーランドよりもひどいと言われていたほど」と いう惨状になったとのことです。(惨状なんてかくと、ポーランドの人に怒られる かも知れないですが…)
ということで、サッチャー時代のまとめです:経済成長という観点からは、サッチャー改革により「効率」は良くなったのかもしれません。 しかし、失業率が大幅に増加し、犯罪が増加し、手術を受けようと思ったら半年待ち、というような社会が本当に健全なのか、そこで暮らす国民は幸せなのか、ということについては、非常に疑問の残るところである と言えます。
[補足事項]
#なお、そんなサッチャー時代でも、政府支出は一貫して増加していました。
英国の政府支出のインフレ率を割り引いたあとの年平均増加率は以下の通りです。
70年代:平均4.0%
80年代:平均1.8%
90年代:平均1.8%
(Bank of Englandのデータから計算。ただし政府支出=政府消費+政府投資)
確かに、サッチャー時代は70年代と比べると政府支出の増加率は小さくなったのです
が、それでもインフレ率を上回って増加していることに変わりはありません。つまり、
サッチャーは日本の構造改革派政権と違い、歳出削減などしていません 。
政府支出がしっかり増えていたのに、86年までのサッチャー政権の失業率が高かった
理由としては、前出「サッチャー時代のイギリス」によると、例えば、軍備増強は核兵
器の拡充が中心で労働集約型ではなく資本集約型の投資であったため、雇用を直接増や
すようなカネの使い方ではなかった、ということのようです。
(ブレア政権については(2)にて)
2008/12/09 (Tue) 01:28
(前号の続き) さて、筆者の感触では構造改革派の主張や発言には事実と異なることが多いように思われます。事例を三つ(①~③)紹介しておきます: ①構造改革派の代表格である竹中さんの著書「あしたの経済学」p.52に「競争力のある自動車や電機・電子といった産業は、規制による保護などないか極めて少ない産業です。常に、世界の最先端のマーケットで競争しています」とあるのですが、日本の自動車産業は1950年代には「国内乗用車産業廃絶論」まで出るほど脆弱だったのを、税制優遇・乗用車の輸入禁止措置その他のものすごい保護政策の中で守られながらなんとか育って行ったという時期があったのです。「常に、世界の最先端のマーケットで競争しています」の「常に」というのは全く事実無根です。これは戦争に例えると分かりやすいと思います。何の訓練も受けていない新兵をいきなり実弾飛び交う戦場に送り出したりすれば、どういうことになるかは火を見るよりも明らかです。保護育成すべきは保護育成し、競争を促進すべきは促進する。何でもかんでも自由競争、何でもかんでも保護すればよいというわけではなく、ケース・バイ・ケースで是々非々に対応することこそが適切で健全なあり方であると言えます。 ②竹中さんは今年7月ころのフジテレビ「報道2001」に出演されていたときに、他の出演者が「今の経済状況では弱者救済が必要」と発言したのを受けて「世界は日本が財政出動をすることを望んでなんていませんよ。構造改革が進んでいるアメリカは今年も実質GDPはプラス成長の見込みです。」という趣旨の発言されていました。この発言は二重の意味でウソが含まれています。 まず、第一に現FRB議長のベン・バーナンキ氏は議長就任前ですが、2003年に来日の際の講演で One possible approach to ending deflation in Japan would be greater cooperation, for a limited time, between the monetary and the fiscal authorities.Specifically, the Bank of Japan should consider increasing still further its purchases of government debt, preferably in explicit conjunction with a program of tax cuts or other fiscal stimulus. 日本におけるデフレを収束させるための、一つの可能性のあるアプローチとしては、通貨当局(日銀)と財政当局(政府)がほぼ同時期に、より大規模な共同行動を取ることである。具体的には、日銀が、現在よりももっと政府債務(国債)の購入(引受け)を増やすのと連動して、政府は減税または財政出動をすることが望ましい。 と述べています(03年5月、日本金融学会60周年記念大会講演"Some Thoughts on Monetary Policy in Japan"のp.9から引用。邦訳は筆者)。竹中さんの「世界」の中には世界最大の中央銀行のトップである人物は入っていないようです。彼の「世界」とはどうやら、彼と同じく「財政出動は悪だ」と決め付けているお仲間の皆さんだけが存在する世界のようです。 第二に、今年の5月ごろに実施された所得税等の減税還付(約15兆円)ですが、これは所得税を納税していない世帯にまで小切手を送りつけるという、超が付くほど純粋なバラマキ、財政出動です。この15兆円というのは米国のGDPがおよそ1500兆円なので、その1%に相当します。そして米国では消費性向が70%なので、乗数効果は(減税額×70%)/(1-70%)=減税額×2.3倍となり、15兆円×2.3=35兆円、GDPを名目で2.3%押し上げる効果が期待されます。これだけのものすごい財政出動をしているのに竹中さんはこれを無視し、「構造改革が進んでいる米国は(財政出動しなくても)今年もGDPはプラスの見込み」と言っているのです。ここまで来ると立派な「風説の流布」だと思いますが、いかがですか? ③「ITなどで生産性が高まれば雇用が増える」というのも構造改革派の典型的な主張ですが、これも全くのウソ、とまでは言えないにしても決して正確ではありません。1990年から2000年にかけての米国では: ・ITで生産性が高まったとされる産業は「卸売業」が+62万人、「金融業」は+107万人でそれなりに増えていますが、そのITを支え、ITで最も生産性が高まっているはずのコンピューター・電子産業はなんと-8万人でした。 ・一方、生産性が低いままとされる「建設業」は+152万人「医療・社会サービス」は+342万人、「専門職・ビジネスサービス」は+582万人、さらに、非効率の権化であるはずの「公務員」は+238万人でした。 ・なお、全体としては+2230万人でした。 (以上、データ出典Bureau of Labor Statistics) 90年代米国では、生産性が低い産業の方がむしろ勢いよく雇用が増えていたのです。構造改革派の言う「生産性が高まれば雇用が増える」とはあべこですね。 そもそも、生産性が高まれば同じ売上げを稼ぐのに必要な人員は少なくて済むのですから、その産業全体がよほど成長しない限り人があぶれて雇用はむしろ減りかねないのです。 1990年から2000年にかけて、米国のGDP(実額)は1.69倍、政府支出(実額)は1.46倍になっています。政府支出はGDPと比べてもあまり遜色なく増えていたのです。つまり、「生産性の向上」であぶれた人達があぶれるまま政府がほったらかしにしていた、というようなことはないのです。また、93年から99年までの米国は、伝統的にケインズ色の強い(つまり福祉を重視する)民主党政権(ビル・クリントン大統領)でした。ケインズ色が強いとは書きましたが、より正確にはクリントン政権は英国ブレア政権に先駆けて、市場原理(効率)と福祉国家(社会の安定)の両立を目指す「第三の道」を実践していた、とされています。 いずれにせよ、90年代アメリカは「歳出削減」をしながら「構造改革」だけで雇用を増やしたなんてことはないのです。政府支出はしっかり増えているし、公務員もたくさん増えているのですから。 と、以上例を挙げましたように、構造改革派の皆さんの主張には事実に基づかないものが多く目に付きます。それでも、まだ構造改革派の主張を信じられます??筆者自身は竹中さんがテレビに出るたびに、「今日はまた、どんなウソをつきはるのかな」と楽しみにしています。アメリカン・ジョークと思えば苦笑いくらいはできないことはありません。とは言え、そんな竹中さんも近頃では「危機的な状況では財政出動も必要です。成田の拡張工事など、将来必要な公共事業を前倒しにしてやれば良いのです」のような感じで積極財政を奨める発言をするようになっていらっしゃいます。構造改革しながらでもなんでもいいですので、とにかく財政出動しろというのなら、筆者も文句はありません^^。 ただ、今さらながら必要なものにはじゃんじゃんカネを使えとはおっしゃりますが、地域医療崩壊の原因になっている「社会保障費毎年2200億円削減」など、歳出削減の「骨太の方針」を小泉政権のときに打ち出したのはどこの誰だっけ、と思いつつ… なお、現在の政党別の政策類型はこんな感じです: 自民党:積極財政派(ただし、かなり財政再建派寄り) 公明党:積極財政派(「定額給付金」を推し進めたのは公明党) 民主党:積極財政派 社民党:積極財政派 国民新党:積極財政派 共産党:増税派(金持ち増税、大資本家増税で福祉をやる) このように書くと、共産党以外はみんな同じ、ということになりますが、野党の積極財政政策は与党のそれよりも財政出動の規模が概ね大きくなっています。 なお、08年12月3日に閣議決定された政府の財政出動路線への方針転換について、各新聞社の姿勢は、毎日新聞の12月7日記事(4面。各社社説の分析)によると 積極財政推進 日経・読売 積極財政容認(財政再建の道筋示すこと条件) 毎日・朝日・東京 財政規律重視 産経 となっています。ここで、日経・読売以外は財政再建とか財政規律とか言っていることになります。 財政再建とか財政規律とかの社説を書いている人達は、果たして、この言葉の意味が本当に分かっているのでしょうか? たとえば、欧州ではユーロ加盟国は「財政赤字GDPの3%以内」という財政規律のルールがあります。英国では「公的債務/GDP比40%を維持」というルールです。この二つに共通するのは、財政黒字を目指したり、借金を減らしたりすることを目標にしていることではない点にあります。GDPの3%以内ということは、GDPが増えればその分赤字を増やしていける仕組みですし、公的債務/GDP比40%以内ということは、GDPが増えればそれだけ国の借金を増やして行って良い仕組みなのです。 なお、なお、ユーロ参加国については今般の金融危機を受けて「欧州単一通貨ユーロ圏では、財政赤字をGDPの3%以内に抑えることが各国に義務付けられているが、欧州委は、09年から2年間に限って上限超過を容認する方針」(YOMIURI ONLINE 2008年11月27日 http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20081126-OYT1T00861.htm ) としています。 いずれにせよ、このユーロ加盟国や英国の「財政規律」というのは、借金の絶対額を減らそうなんていうルールではまったくありません。だいたい、国家経済の規模が大きくなれば、それにつれて政府支出が増えるのは当たり前であり、それにつれて国の借金が増加の一途を辿るのもこれまたまったく自然のことなのです。 それに、日本ではデフレという不利な条件があることを忘れてはいけません。デフレではモノの値段が下がる、つまりお金の価値が相対的に高くなります。ということは過去に積み上げた借金の価値も大きくなりやすいのです。そして、これが重要なのですが、政府が支出を減らせば当然それはデフレ圧力です。 日本ではGDPの約1/4は政府支出で構成されているので、いわば政府は大きなものの買い手です。この大きな買い手が支出を絞ってきているのであれば、とうぜんモノの値段は下がります。そうなるとGDPも当然伸びず、しかもデフレで借金の価値がGDPに対して大きくなってしまいます。この観点からも、政府は支出を増やすべきなのです。 財政規律と国民生活、どちらが重要かなんて、考える余地もありません。なぜなら、そもそもからして、日本は国の借金は問題ではないし、この国は財政危機でもなんでもないのですから!(国の借金が問題ないという話はこちら:http://blogs.yahoo.co.jp/eishintradejp/5094959.html )
2008/12/09 (Tue) 01:26
経済政策には大きく分けてしまうと、積極財政政策と緊縮財政政策(財政均衡重視)の二つがあります。また、緊縮財政政策の考え方の中には「増税派」と「構造改革派(いわゆる上げ潮派)」の二つの考え方があります。 また、これらの典型的な経済政策の他に、英国のトニー・ブレア政権が打ち出した「第三の道」というやり方もあります(ブレアより前に、米国クリントン政権も「第三の道」と言われており、オバマ政権も「第三の道」で行きそうですが、「第三の道」については次回以降で述べます)。 さて、「積極財政派」、「増税派(財政再建派)」、「構造改革派(上げ潮派)」の三つについて、3ヶ月前の自民党の総裁選を引き合いに出しながら説明します。 「自民党総裁選」なんてネタとしては若干古いのですが、「積極財政派」、「増税派(財政再建派)」、「構造改革派(上げ潮派)」の違いは説明しておかないと、なかなか経済政策の説明はしづらいので、まず初回としてこの話題を取り上げたいと思います。 自民党総裁選で説明すると言っても、筆者は特に自民党を支持しているというわけではありません。念のため。 1.積極財政派-麻生太郎さん(現首相) 国債発行による資金調達、又は減税で景気対策を重視し、財政均衡・財政再建の優先順位は後回しにする考え方(資金調達に関しては国債の増発ではなくて、政府保有の金融資産を取り崩してまかなうという方法も考えられます。この場合でも純負債は増える方向なので、国債発行による資金調達と本質的には変わりません。なお、「政府保有の金融資産」には、具体的にはいわゆる「霞ヶ関埋蔵金」を含みます)。また、積極財政派の財政健全化に関する基本コンセプトは、「そもそも国の借金は問題ないから、財政健全化は後回し」です。(国の借金が問題ないという話はこちら:[http://blogs.yahoo.co.jp/eishintradejp/5094959.html ]) #ただし、積極財政派のはずの麻生首相も、元をただせば少数派閥の首領であり、麻生内閣は増税派(財政再建派)の閣僚が多数を占めているため、麻生首相の発言はどうしても増税派の見解に引っ張られることになりがちのようです。「俺は政調会長のときから市場経済原理主義者(構造改革派)や財政再建原理主義者(増税派)らと戦ってきたと思っている」([http://www.aso-taro.jp/lecture/talk/070928.html 麻生氏HP])はずなのですが… 典型的事例:日本においては高橋是清、米国においてはフランクリン・ルーズベルトによる、世界恐慌後のデフレ不況の克服 権威的存在(経済学者):ジョン・メイナード・ケインズ、ポール・サミュエルソン、ジョセフ・スティグリッツ、ベン・バーナンキ(現FRB議長)等。なお、日本国内でよくテレビで見るのは森永卓郎氏 総裁選の際には、よくテレビで「各候補の政策の違いが分からない」と発言されている人を目にしましたが、たとえば、麻生さんのHPでは、問題は資産価格下落のデフレ不況であるのに、「そこに竹中平蔵という経済現場の解っていない人の、銀行の不良資産一掃策が追い打ちをかけました」([http://www.aso-taro.jp/lecture/kama/2007_3.html ])と構造改革派の代表格である竹中さんを痛烈に批判しています。また、90年代の積極財政について、竹中さんは「失敗だった」、麻生さんは「経済恐慌を防いだ」と正反対の評価をしています。そして前出のように「市場経済原理主義者や財政再建原理主義者らと戦ってきた」はずなので、本当は「違いが分からない」どころか、「加藤あい」と「阿藤快」くらい違います。 2.増税派・財政再建派-与謝野馨さん 景気対策もするが、増税もする。増税による財政均衡、つまり、これ以上国の借金を増やさないこと、財政再建が非常に重要と考えている。 典型的な事例:強いて言えば、スウェーデンなどの福祉国家建設です。 スウェーデンでは福祉のために非常に高い税率となっています。 ただし、スウェーデンでは福祉を充実させる上で、借金が 増えるのが先行していたので、財政再建のために増税したのでは なく、福祉を充実させるための支出が増える方が先でした。 日本の増税派・財政再建派とは根本的にコンセプトが違います。 権威的存在(経済学者):福祉重視、ということであればケインズ。 ただし、財政再建優先ということであればケインズは 違います。 そもそも、なぜ財政再建が重要なのでしょうか? 「これ以上国の借金が増えると国が破綻してしまうから」、というのが財政再建を重視する皆さんの主張です。「これ以上」とは具体的にはどれ以上なのか少しも具体的に示していません。日本は破綻するぞ、破綻するぞと言われ始めてから10年以上経ちますが、一向に破綻する気配はありません。(国の借金が問題ないという話はこちら:[http://blogs.yahoo.co.jp/eishintradejp/5094959.html ])。 ただし、与謝野さんの政策のうち、景気にあまり左右されない安定した税源である消費税の税率を上げることで、社会保障に充てる財源を安定的に確保するという考え方は、一つの合理的な選択肢であると考えられます。が、消費税の税率を上げると弱者からまずしわ寄せが行ってしまいますので、やるなら日用品の消費税率は上げないかゼロにしたり、積極財政での弱者保護や景気対策をセットで行って欲しいところです。 ただし、「2015年までに消費税を様子を見ながら段階的に10%まで引き上げる」とおっしゃっているので、当面、一応は景気対策優先の模様です。 3.上げ潮派・構造改革派・新自由主義-石原伸晃さん、小池百合子さん 構造改革・規制緩和・民営化等を通じて、財政出動による景気対策をすることなく、経済を活性化させるという考え方。また、増税派と同じく財政均衡・財政健全化も重視。ただし、増税派は増税により財政均衡を図ろうとするのに対し、構造改革派は歳出削減により財政均衡を達成しようとしている点で違います。 典型的な事例:米国レーガン政権、英国サッチャー政権における、インフレ不況(スタグフレーション)の克服。ただし、これらのレーガンもサッチャーも、改革しながらも政府支出は毎年増額していました。特にレーガンは凄まじく政府支出を増加させました。2000年以降7年にわたる長期間、実際に政府支出を減らし続けている日本は、世界の近現代史において非常に珍しいケースです。なお、95年以降はほぼ基本的に政府支出を横ばいまたは減らしている日本では国民の実質平均所得は減っています。政府支出が増え続けたサッチャー時代のイギリスもレーガン時代のアメリカでも、国民の実質平均所得は増えました(実質平均所得はOECDのデータベースで見ることができます)。 権威的存在(経済学者):ミルトン・フリードマン、ロバート・ルーカス等。日本国内でよくテレビで見るのは竹中平蔵氏 (以下、次号に続く)
2008/12/08 (Mon) 21:28
ひさしぶりの更新です。 まずは、進捗報告です。 早ければ来年1月下旬には出版されるかもしれません。 #ということで、このブログの構成そのものを変更中です(^^;) 本のテーマは「国の借金はまったく問題ないですよ!!!」です。 内容については、ネタばれしない程度に、ほんのさわりだけ書きますね: ・国の借金は問題ないので、景気対策のために政府はじゃんじゃんお金を使って良い のです。 ・でも、国の借金は税金で返さないといけないのでは? →そんなのはデタラメです。 1.多くの国々で「国の借金」は過去最高を更新中です。日本だけじゃあり ません。 つまり、国の借金というものは基本的に減らないものと考えて いいでしょう。というのは、減らす必要がないからです。 2.税収以外にも国には収入源があります(金山の収入とかじゃないですよ)。 →明治維新政府はこれを使って国づくりをしました。 これにはなんと、あの坂本龍馬も関係しています! その前に暴れん坊将軍もこれを使って幕府を建て直しました!! →しかも、国がじゃんじゃん借金をして、じゃんじゃんお金を使った方が、実は 財政は健全化しやすいのです。本の中ではたくさんの実例を挙げていますし、 その理屈についても丁寧に解説しています。 ・でも、国の借金が返せなくなった国もあるじゃないですか?アルゼンチンとか? →アルゼンチンはGDP(国内総生産)と比べると日本よりもずっと借金は少なかった のですが破綻しました(アルゼンチンが破綻したときの借金はGDPの6割くら い)。そのアルゼンチンよりもずっとGDP比での借金が少なかった韓国も破綻し かけました(そのときの韓国の借金のGDP比は1割以下)。 一方、GDPの100倍を超えても破綻していないジンバブエという国もあります! 日本はGDPの約2倍です。 さて、借金が少なかったのに破綻した(または、しかけた)アルゼンチンや韓国と、 借金がずっと大きいのに全然破綻していない日本やジンバブエの違いとは?? ・でも、国の借金を増やしすぎたときには、インフレは怖くないですか? →日本の問題はこの10数年、デフレであることです。ちょっと前に資源高でインフレ を心配するような論調がマスコミ等で盛んでしたが、そのときですら、日本のイン フレ率は世界一低かったというのはご存知でしたか? マスコミ報道だけを見ていると、経済の本当の姿は分からないものです。 そして、マスコミだけならまだしも、どうやら日銀も設立のときから過度のインフレ 恐怖症にかかっている疑いが…→本の中で詳しく書いています^^ ・でも、いまのアメリカ発の金融危機、サブプライムローンとかCDS(クレジット・ デフォルト・スワップ)とかを組み込んだ複雑な証券化商品などのケッタイな金融 取引がえらいことになって世界経済が破綻でもしたら、日本だって無事に済まない んじゃないの? →はっきり言って「世界経済が破綻」なんてあり得ません。だって、どんなに複雑な金 融取引をしていても、誰かが目一杯損をしたら、その反対側でその分だけ必ず誰かが 得をしているんです。その証拠に世の中のお金(現金+預貯金)の量は変わりませ ん。これは、誰でも見ることができる、とある統計データを見れば一目瞭然なので す!! ・他にも、オバマ関連の話題とか、今回の経済危機とアジア通貨危機の共通点とか、そん な話題も取り上げています。 ・そして、この本の主張は、「日本政府は財政規律がどうたらこうたらケチケチしたこと を言ってないで、さっさと景気対策をして、多くの困っている人達を助けなはれ。元々 からして、国の借金なんて何の問題もないじゃないの。」です。この「主張」どおりの ことを80年代のイタリアがやっていて、非常にうまくいっています。(実は、このイタ リアの例は本の原稿を書いているときににたまたま発見したのですが、本当に面白い ですよ!目からウロコは請け合いです!!) ということで、詳しくは本の中で^^。乞うご期待です!!!って、タイトルもまだ決まってないのですが^^;。タイトルは目下、出版社(彩図社)さんの方で鋭意検討中です。
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