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廣宮孝信 ひろみやよしのぶ

Author:廣宮孝信 ひろみやよしのぶ
工学修士(大阪大学)、都市情報学博士(名城大学)。
2009年、著書「国債を刷れ!」で「政府のみならず民間を合わせた国全体の連結貸借対照表(国家のバランスシート)」を世に送り出した経済評論家、"国家破綻セラピスト"です。
「アイスランドは財政黒字なのに破綻!」、「日本とドイツは『破綻』後50年で世界で最も繁栄した」--財政赤字や政府債務GDP比は、国家経済の本質的問題では全くありません!
モノは有限、カネは無限。国家・国民の永続的繁栄に必要なのは、国の借金を減らすとかそんなことでは全くなく、いかにモノを確保するか。モノを確保し続けるための技術投資こそがカギ。技術立国という言葉は伊達にあるわけではなく、カネとか国の借金はそのための手段、道具、方便に過ぎません。
このように「モノを中心に考える」ことで、国の借金に対する悲観的常識を根こそぎ打ち破り、将来への希望と展望を見出すための”物流中心主義”の経済観を展開しております。”技術立国・日本”が世界を救う!
 お問い合わせは当ブログのメールフォーム(下の方にあります)やコメント欄(内緒設定もご利用ください)や、ツイッターのダイレクトメッセージをご利用ください。

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294:自民党VS民主党[経済政策比較] ②

2009/01/30 (Fri) 23:12

【3】定額給付金の効果

積極財政・景気対策をしようとすると、すぐ「バラマキ」マスコミもこぞって批判を始めるが、
「バラマキ」が全くの無意味ということはない。

例えば、
与党の「定額給付金2兆円」の場合。

この「給付金」は、それ自体が公共事業とは違って「生産活動」を伴わないので
GDPの計算には入らない

しかし、
この金額だけ国民の金融資産が増えたり借金が減ったりする=国民の純資産が増える
ので、
その分だけでも意味がないということにはならない。

また、
この給付金の使い道については共同通信の電話調査(東京新聞2008年11月11日 朝刊に掲載)で

・「生活費」50.3%
・「娯楽費や高価な商品の購入」16.9%

という結果が出ている。

この調査通りになると仮定すると合計67.2%が消費に回ることになる(※1)。

※1.
最近の日経ネット調査でも「消費者の約6割が買い物やレジャーなどの消費に使うと考えている」となっています(日経ネット09年1月29日)
これ(67.2%)と国全体の消費性向として07年度実績の57%を用いて乗数効果を計算すると

2兆円×0%+2兆円×67.2%+2兆円×67.2%×57%+2兆円×67.2%×57%2+・・・
↑ここで0%を掛けるのは、
    最初の2兆円(政府→国民への支給)は単なるお金の給付で生産行為ではなく、
    価値を生まない、つまり、GDPの計算に含まれないため。
=2兆円×67.2%×1/(1-57%)
2兆円×1.56倍
=3.1兆円

名目GDP押し上げ効果が期待できる(※2)。

※2.
定額減税はいわば所得税の減税です。内閣府経済社会総合研究所の短期「短期日本経済マクロ計量モデル(2008年版)」によれば、名目GDP比1%の所得税減税(毎年継続)による名目GDPの押し上げ効果は
1年目 0.25%  
2年目 0.80%
3年目 1.08%
で、単年度だと、なんと乗数効果は0.25倍にしかならないことになります。

ということは、
2兆円なら2兆円×0.25=0.5兆円しか名目GDPは増えないことに。
それでも使われない部分は貯金などの形で国民資産の増加になるのですが。

でもこれだと、消費性向(r)は
定額給付金のうち「r」の割合だけ使われ、その後は国全体の消費性向57%でお金が循環すると仮定すると、

r×1/(1-0.57)=0.25
⇒r=0.108

で、国民は平均でもらったお金のうち10.8%しか使わないという想定になります。

では、先ほど計算した1.56倍は大げさか?ということになりますが、そんなことはないと思います。

というのは、
通常の所得税減税では、所得税を払っている人、つまり、課税最低限以上の所得のある人だけしか恩恵がりません(夫婦子2人の給与所得者なら所得税の課税最低限は325万円[財務省])。

と言うことは、
所得のうち消費に回す割合の高い低所得者層に対しては、減税の効果は皆無となります。
それゆえ、
通常の減税では、消費性向は低くなる=乗数効果が小さくなると考えられます。

しかし、
定額給付金は所得に関係なく全世帯に支給されるので、
消費性向はもっと高くなる=乗数効果は高くなるでしょう
(前述のアンケート調査のように6~7割程度ではないでしょうか)。

【4】与党の「生活対策」(2008年10月30日)では規模は不十分

ただし、名目GDP
平成20年度第2四半期年額換算前年同期比マイナス4.3兆円
第3四半期 マイナス10.5兆円
になっている中で、
真水5兆円(※3)で
しかも単年度のみの経済対策では
乗数効果を入れてもGDPのマイナスをある程度緩和するくらいにしかならない
と考えられる。
しかも、
経済対策の実施時期がずるずる遅れてしまっている点は非常に問題である。

※3.
その後、政府の追加経済対策の「真水」規模は12兆円まで増えて来ていますが、平成20年第4四半期以降、GDPの落ち込みはそれ以上になってきそうなので、これでも物足りない感があります。なお、その12兆円のうち、この記事を投稿した時点で国会で成立しているのは4.8兆円です。

【5】民主党の政策の方向性は評価に値するが…

一方、
民主党の「経済・金融危機対策」は真水の金額を明瞭にしていない点が問題であるが、

とりあえずは
4年にわたって継続的に積極財政を行おうとしている点は高く評価できる。

また、
「子ども手当て」や「後期高齢者医療制度の廃止・医師不足解消」など、
カネを使ってこの国をどういう方向に持って行きたいかがある程度明らかになっている点も好ましい(※4)。

ただし、
民主党案が有効かどうかも、結局真水がいくらになるかに左右される
ということを指摘しておきたい。

※4
・医療重視、社会保障費削減は止めるというのは、国の借金が問題ないという前提の中では、
 全く正しいと言えます。
・また、「子ども手当て」については、「国債を刷れ!」の中で、
  ・子どもの「貧困」はその子自身の責任ではありえない。
  ・「貧困」で子どもの教育機会が奪われれば、潜在的に能力の高い人材が
   埋もれたままになって、将来、国全体の利益が損なわれかねない
  ・子どものいる世帯は消費性向が高いので、「子ども手当て」は乗数効果
   が高くなることが期待でき、よって経済合理性が高いと考えられる
 のような内容を書きました。
上記のような観点で、民主党の政策の方向性は好ましい、というわけです。
 



〔追記次項① 自民・民主 経済対策の最新情報〕

自民党民主党、それぞれ景気対策について具体的な内容を簡単にまとめた「チラシ」がありますので、ご参考までにリンクを:
自民党チラシ(pdf)
民主党チラシ(web)

また、
景気対策の財政出動の規模(「真水」)について最新情報

自民党の12兆円に対し、

2月1日のテレビ朝日「サンデープロジェクト」
民主党の鳩山幹事長「それでは全く足りない」

のように発言されていました。

ということは、民主党の考えている真水は12兆円を超えていることになりますね。

「結局、なんぼやねん」ということは、民主党のホームページを見てもさっぱり分からないのですが、真水の規模は大きいに越したことはありません!

〔追記次項②〕 求む「対立を乗り越える柔軟なリーダー」
アメリカではオバマ大統領が、
・予備選であれだけ激しくやりあっていたヒラリー・クリントンを国務長官に指名
・米国史上で初めて民主党大統領として共和党の閣僚(国防長官)を留任
といった具合に、
国難にあって、鮮やかなまでに対立を乗り越えるようとする姿勢を打ち出しています。

日本に今望まれるのは、対立を乗り越えていけるような、柔軟に事態に対処できるリーダーであるように思うのですが、いかがでしょうか。

犬猿の仲だった薩摩藩と長州藩の間を取り持って薩長同盟を成立させた坂本龍馬のような、調整力に長けた人物が…



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295:自民党VS民主党[経済政策比較] ①

2009/01/30 (Fri) 18:58
この記事は、紙幅の関係で「国債を刷れ!」に掲載できなかった部分です:


08年11月時点での比較なので、若干古いネタ'''なのですが、
主なテーマは
・評判の悪い定額給付金の経済効果やいかに?
・金額はさておき、お金の使い方の中身は自民と民主どちらが良さそうか?
で、このテーマ自体はまだまだ新鮮なネタであると思います^^。

#ただ、最も重要なのは

与党も野党も中身はともかく、一番注力すべきはお互いに対立を乗り越えて、大規模な経済対策を速やかに実行に移すこと

であるように思う次第ですが…

政府の2次補正予算は「衆院優越規定」で1月27日に一部だけ成立しましたが、定額給付金その他の財源についてはまだもつれ込みそうです(日経ネット記事)。

(今回の記事は長いので①と②に分けて掲載します)


自民党と民主党の経済対策比較(2008年11月時点)

※ここでは、
「無駄を省いて捻出した財源での経済対策」や、
「貸付金・融資など政府があとから回収するような金額の支出」
ではなく
政府が純粋に費用的な支出を増やすか、減税により民間の支出を促す
「真水」の経済対策
つまり、積極財政政策のみに焦点を当てる

というのは、
無駄を省いた分を他の支出項目に付け替えたり、貸付金を増やしたりするだけでは、政府支出の合計額は増えないし、それでは政府支出と民間支出と純輸出の合計であるGDPも基本的には増えないからである。

【1】自民党・公明党(与党):「生活対策」(2008年10月30日)
・①定額給付金2兆円
②中小・小規模企業等支援対策0.5兆円
③地域活性化対策0.8兆円
を含む真水の歳出増加が5兆円(単年度のみ)


財源は霞ヶ関埋蔵金。

 赤字国債に依存しないこととし、
 そのための特例措置として、
 平成20年度における財政投融資特別会計から
 国債整理基金特別会計への繰入れを停止するなど
 財政投融資特別会計金利変動準備金の活用等を行う

となっている。

ここで金利変動準備金とは

財政投融資の利ざやによる利益の積立金

である。

これを「国債整理基金特別会計」に繰入れないというのは、

財政投融資特別会計の金利を国債の返済に回さないという意味。


つまり、

いわゆる霞ヶ関埋蔵金を国の借金を減らすのに使うのを止めて景気対策に回す

ということになる。


これでは結局政府の純負債は増える方向になるので、
赤字国債の発行による景気対策と本質的には同じである。

もちろん、それ自体は問題ではなく、支出を増やすことに意義がある。


【2】民主党:「経済・金融危機対策」(2008年11月5日)
・①子ども手当て4.6兆円
②農家戸別補償金1兆円
 ③道路特定財源の暫定税率廃止2.6兆円
 ④高速道路の無料化2兆円
 ⑤後期高齢者医療制度の廃止・医師不足解消1.9兆円などで、

・予算規模は平成21年8.4兆円、22年と23年は14兆円、24年は20.5兆円と段階的に増額する。

・ただし「真水」の部分は霞ヶ関埋蔵金を毎年6.5兆円使う部分のみの模様
 (「真水」がいくらかは明示されていない)

・財源は霞ヶ関埋蔵金と、それ以外は「無駄」な支出の付け替え
(公務員の人件費カットなど)になっている。


なお、民主党の「埋蔵金」活用は、

外為特会の毎年の利益相当額
(財務省の「平成15年度以降特別会計項別歳入歳出決算、予算」を見ると、近年では毎年3.5兆円程度

などを充てるとのこと。


実は平成20年度予算では、

外為特会からは1.3兆円を国の借金返済に回すことになっているので、

この部分を経済対策に使うとすれば結局は赤字国債の増発と変わらない


また、

埋蔵金は国の保有する資産であり、

この資産をどんな形であれ使うということは、

結局は国の純負債を増やす方向になる。

ということであるので、自民党の財源と本質はさほど変わらない。


自民党民主党

互いに相手の政策について「財源がない」とか「バラマキだ」とかいった批判

をしているが、

本書(「国債を刷れ!」)で繰り返し述べて来たように財源がないということは全くない。



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296:バブル崩壊後の「財政拡大」の効果

2009/01/28 (Wed) 13:04
麻生首相は、
バブル崩壊後の財政拡大(景気対策)→国の借金の増加について
オフィシャルサイトで、
「政府がその30兆円の金を国債として借りて来られたから(財政拡大ができて)、日本の不況はこの程度で済み、GDPもこれだけのデフレ不況下で500兆円を維持できました」
と述べています(上記引用のカッコ書きは筆者が追記しました)。
今回は、そのことについての詳細な検証です。

「国債を刷れ!」p.217-p.218では紙幅の制限でかなり内容を圧縮してしまっていましたので、元々書いていた内容を下記で復活させます。
バブル崩壊後2007年までで、日本の名目GDPの伸び率はIMFデータベースから計算すると151カ国中世界最低
なのですが、それでも実は、
政府が支出を増やした以上に名目GDPは伸びている。つまり、乗数効果が間違いなく効いていた
というお話です:


バブル崩壊後の財政拡大の効果

こまかい数値表で恐縮なのであるが、少々がまんして図表1を見ていただきたい。
これは
1990年の水準と比べて、GDPとその各構成要素が1991年以降の各年でどれだけ増えたか、または、減ったかを示した表
である。

図表1 GDP各構成要素の対90年比増減表
     内閣府「国民経済計算」データから計算


これによると、
91年以降の政府支出は90年の水準より平均26.5兆円大きくなっている。
そして、
この政府支出の大きくなっている分の、91年から07年までの累計額は450.7兆円。
この金額はちょうど同じ期間の政府の純負債の増加額429兆円と同程度の金額になっている。
つまり、
90年と比べて大きくなっている政府支出の金額は、ほぼバブル崩壊以降の減税を含む追加経済対策の金額と同程度と考えて良いことになる。


さて、ここで、
GDPの90年比増加額の累計は806兆円であるので、
政府の追加支出450.7兆円の乗数効果
806/450.7=1.79倍
と計算できる。

一方、
民間投資は最大37.5兆円、平均23兆円も90年の水準を下回っている。
巨大なマイナスである。
政府の追加支出、平均26.5兆円はこの民間投資の巨大なマイナスを補って若干のプラスに持っていく程度でしかなかった。
逆に言えば、
この政府の支出増加は経済恐慌の発生を防ぐために行われ、実際に経済恐慌の発生を防いだ、と言える。
麻生首相の「日本の不況はこの程度で済み…」という主張は全く正しいと考えて差し支えなかろう。
バブル崩壊の影響は非常に甚大だったのである。

ところで、
マクロ経済モデルでは政府支出を含めて、民間投資、純輸出(貿易収支+サービス収支)を、支出と収入の連鎖の出発点である 「自生的支出」と捉えることになっている。※

※注:
例えば、丹羽春喜氏「新正統派ケインズ政策論の基礎―真理を簡明な論理と実証で―」p.8に
…「民間投資支出+政府支出+経常収支黒字」を「自生的有効需要支出額」であると見なせば(これは妥当な想定であろう)…
とあります。

「国債を刷れ!」p.145(図表35)では
簡単のために乗数効果について政府支出のみで説明したが、
乗数効果は政府支出のみならず、自生的支出の合計に対して算出すべきもの
となる。
ここで、改めて90年比の政府支出増加額についての乗数効果を計算してみると、
  GDP /(自生的支出=民間投資+政府支出+純輸出)
  =806兆円/109.8兆円=7.34倍
となる(増加の累計分の消費性向696.2兆円/806兆円=86%から計算しても、やはり 1/(1-0.86)=7.34倍となる)。

よって、
「バブル崩壊による民間投資のマイナスを、政府の追加経済対策と純輸出の増加分が補って、自生的支出を累計109.8兆円増加させ、その109.8兆円が7.34倍の806兆円のGDPを追加的に創出した」
と捉えることができる。

「90年比の増加分」ではなく、全体の額で計算した2007年の消費性向は57%であるので、上記の86%と言うのは高過ぎるようにも思われる。
しかし、
「近年の所得格差拡大の進行に伴い低所得者層が増加している。一般的には低所得層ほど所得を貯蓄に回す余裕がないので、消費の割合が大きくなる。よって近年において、自生的支出の追加分から生ずる所得については、増えた分だけ直ちに生活費等の消費に回される傾向にある」
仮説を立てれば、説明は可能である。

1.79倍であれ、7.34倍であれ、
政府が増やした支出以上のGDPが生み出されていたことは疑いようもない事実である。
そして、
政府が増やした支出以上にGDPが増えたということは乗数効果が間違いなく働いていたということであり、
乗数効果が働いている
ということは、「国債を刷れ!」p.150(図表37)で説明しているように、
借金の大きさを怖がらずに追加経済対策をもっと増やしていたら、更なる経済成長と財政再建を両立できていたことは、疑う余地はない。
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297:GDPデフレーターと生産性-原油高騰で名目GDPがマイナスでも実質GDPがプラスになるカラクリ

2009/01/25 (Sun) 22:01

【GDPデフレーターと生産性】

~原油高騰で名目GDPがマイナスでも実質GDPがプラスになるカラクリ~

一般的に、
企業は原油価格高騰など輸入物価の上昇原材料の仕入れ値が上がった分そのまま値上げして消費者に売るわけではなく
企業努力
つまり、
「生産性の向上」売値が上がらないようにします

たとえば、
売値が100円の商品があるとし、
この商品を作る原材料費が20円とします。

そして、
この原材料が輸入品で、
その仕入れ値が2円上昇したとしても、
企業が努力して売値は+1円の上昇で押さえたとします。

この場合、
輸入物価は+10%(=2円÷20円)
・モノやサービスの売値が反映される消費者物価は+1%(=1円÷100円)となる計算です。

一方、
輸入物価の変動の影響を除いた物価指数であるGDPデフレーターはどうなるでしょうか?

売値100円の商品が1円値上りしたのですが、
「輸入物価の変動の影響」の2円分を取り除くと差引き-1円
GDPデフレーターは-1%(=‐1円÷100円)となります。

輸入物価が上がっても企業が「努力」して「生産性を向上」させることで
売値が上がるのを押さえた分、GDPデフレーターが低下するのです。

ここで、
仮に物価高の影響でモノが売れなくなった結果、名目GDPが若干落ちて-0.5%となったとします。

それでも、
GDPデフレーターを反映して計算した実質GDPは+0.5%の成長になるのです。

このように、
企業の「努力」の結果、GDPデフレーターがマイナスになることで、
名目GDPが伸びなくても実質GDPが伸びるという状況が起こり得るのです。

それゆえ、
実質GDPの成長率は、その国の生産性の向上を反映した経済規模の変化の目安となります。

もちろん、
その「努力」が単に人権費を削っただけかも知れないですので、注意が必要です。


具体例として図表1の上段に示した日本の2008年第1四半期の状況を見てみましょう。

図表1




輸入物価が大きく上昇(+8.8%)し、それにつられて
 消費者物価が+1.0%上昇しています。
・ただし、物価高の影響でモノが売れず名目GDPはマイナス0.3%
・一方で、GDPデフレーターはマイナス(マイナス1.5%)となり、
 実質GDPはプラス成長(+1.2%)となっています。

ところで、
この例だと、消費者物価が上昇しているのでインフレです。

さて、このインフレ
①需要インフレ(モノを買う人が多いために起こるインフレ)、
②供給インフレ(原材料価格の高騰によるインフレ)
どちらでしょうか?
(通貨発行のし過ぎによる「貨幣インフレ」についてはとりあえず置いておきます。)

①需要インフレだとすれば、
需要が牽引して物価が上昇する状況
つまり、
買い手が多く、売り手が少ないような状況ということになります。

この場合、
売り手からすれば引く手あまたです。

輸入物価が上昇して仕入れコストが高くなっても、そのコストが高くなった以上に売り値に上乗せすることだってできるはずであると考えられます。

それができるのなら、
消費者物価や企業物価から輸入物価の影響を差引いても物価は上昇
つまり、
GDPデフレーターはプラスになるはずです。

しかし、
日本ではGDPデフレーターはマイナスになっています。

なので、
日本の物価上昇は需要インフレ(ディマンド・プル・インフレ)ではなく、 あくまでも輸入物価上昇による②の供給インフレ(コスト・プッシュ・インフレ)
ということになります。

同時期の米国では輸入物価が日本と同じくプラス、GDPデフレーターは日本とは逆でプラスになっています(図表1)。

ということは、
米国では輸入物価上昇によるコストアップ以上に製品の売値を値上げすることができている
ということになります。

需要がそれだけ旺盛ということで、米国でのインフレは①の需要インフレに該当します。

このように見てゆくと、
GDPデフレータがプラスかマイナスかで需要インフレが起こっているかどうかを見分ける目安になる
と考えることができます。

つまりは、
GDPデフレーターがプラス⇒需要が供給を引っ張る「需要>供給」の状況
GDPデフレーターがマイナス⇒需要が足りていない「需要<供給」の状況
というように、
GDPデフレーターのプラス・マイナスは需要の供給のバランスを見分ける目安
になる、ということになります。

#ということですので、
GDPデフレーターの変化率が世界で最も低い日本("IMF, World Economic Outlook Database, October 2008" 2008年推計値)は、世界で最も「需要<供給」の状況、つまり、供給に対して需要が最も不足している国であると言えます。
つまり、
日本は世界で最も大規模な財政拡大(=景気対策)をする余裕のある国であると考えることができるのです。
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298:内閣府シミュレーションによる財政拡大⇒財政健全化の検証

2009/01/25 (Sun) 19:15
「国債を刷れ!」p.152にて
本項でとりあげたのは、筆者による極めて粗い形のシミュレーションであるが、政策決定にも使われる内閣府による精密なシミュレーションを用いた検証でも、「政府が支出をケチらない方が財政悪化は防げていた」という結論を導き出すことができる。詳細は筆者ブログを参照されたい。
と書きましたので、
その内閣府シミュレーションの話です。

内閣府のシミュレーション結果【短期日本経済マクロ計量モデル(2006年版)】 では、
2002年から04年までの各項目の実績値に対する差異の数値(パーセンテージ)のみが示されています(図表1)。

図表1 内閣府シミュレーション表の抜粋



筆者は、
そのマクロ計量モデルのパーセンテージ数値
実績値(図表2)の金額を掛け合わせて
各項目のシミュレーション金額を算出しました(図表3。単位は全て兆円)。

図表2 GDP、政府支出、国の借金の実績値



図表3 実績値にシミュレーション表の数値を掛け合わせた結果



シミュレーション(1)シミュレーション(2)も、
道路や建物などの「固定資本」を建設する公共事業等の政府支出を、
実績値と比べて年5~7兆円増やしたらどうなるかというシミュレーションです。

政府支出合計は実績では年々減らしています(図表2)。
それに対し、
シミュレーション(1)、シミュレーション(2)では共に、
政府支出合計は減らずに、122兆円前後でほぼ横ばいとなっています(図表3)。

シミュレーション(1)とシミュレーション(2)の違いは、

(1)は財政出動により金利は若干上昇、
(2)は短期金利は日銀が積極介入して上昇させない、
という条件であることです。

なお、ここでは累積財政赤字の増加分だけ国の借金が増加するものと仮定しています。

結果は、

シミュレーション(1)もシミュレーション(2)も実績値と比べて、

〔1〕政府支出以上に名目GDPが増えている!

〔2〕国の借金/GDP比が小さくなっている!


つまり、
内閣府のシミュレーションからは、
政府支出を減らさなかった方が財政の悪化はまだマシな状態になっていただろう
という結論を導き出すことができるのです。

しかも、
更なる経済成長を伴って!

#なお、図表3
 実績に対する累積赤字増加額(=実績に対する国の借金の増加額)が、
 実績に対する政府支出の増加額の3年間累計
に比べて小さくなっています。

 (1)では累積赤字増加額8.0兆円<政府支出増加額18.1兆円
 (2)では累積赤字増加額12.0兆円<政府支出増加額18.3兆円

 これはなぜかというと、
 政府支出増⇒名目GDP増⇒税収増となるために、
 政府支出の増加のうちのいくらかが税収の増加で打ち消されることなどにより、
 財政赤字が軽減することになるためです。

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299:財政拡大とマンデル・フレミング理論

2009/01/19 (Mon) 23:10

【1】「『もはや財政出動は効かない』が世界の常識」のウソ

「国債を刷れ!」p.59で
国の借金が増えることと金利とは無関係
と言う話をしたのですが、関連して
「金利が上昇するから財政出動は利かない」とする説がウソ
であることについても述べておきたいと思います。

例えば、竹中平蔵氏

そもそも従来、開放経済の下では財政拡大は大きな効果を持たないことが知られてきた。

財政で内需を増やしても、一方で金利上昇・通貨高(筆者注:つまり、円高)・輸出減というメカニズムが働き、財政の効果がキャンセルアウトされるためだ。

その中で日本は、ロジック(論理)を無視して常に財政拡大を指向してきた数少ない国だった。

(Fuji Sankei Business i 2008.12.22)

 ここで、「開放経済」とは要するに、為替変動相場制で自由貿易をしている場合の経済です(江戸時代の鎖国経済と正反対の経済)。

 このような話は、竹中氏と密接な関係のある高橋洋一氏(「霞ヶ関埋蔵金」の提唱者)も著書「日本は財政危機ではない!」p.19で

景気対策に公共投資を投下する財政政策が効いたのは、はるか昔の固定相場制の時代のことであり、変動相場制の下では、ほんの少ししか効かない
(中略)
これは『マンデル・フレミング理論』によって証明されている。
(中略)
(その理論は)ノーベル経済学賞を受賞した国際経済学者、ロバート・マンデルらによって唱えられ…もはや世界では常識となっている

と述べています。

竹中氏も高橋氏も特に
 日本の90年代(借金ばかりが増えてGDPが伸びなかった「失われた10年」)を問題にしています。
 公共事業をしまくった割りには景気が良くならず、借金ばかりが残ったという具合です。

そして、
その理由を「金利が上昇するから」としているのですが、
その「公共事業をしまくった90年代」は金利は下がり続けています(図表1)

図表1 80年代から2000年代にかけての国の借金と金利

つまり竹中氏
「財政で内需を増やしても、一方で金利上昇」
という見解は、
全くの事実無根であるのです。

そもそも、
金利というものは、中央銀行(日銀)が市中に資金を供給することでいくらでも下げることが可能
です。

 日銀資料(日銀レビュー「開放経済下での金融政策入門」金融研究所・藤木裕氏 2006年7月)には、
上記のマンデル・フレミング理論について

変動為替相場制の下で中央銀行が金融緩和を行ったとする
(中略)
国内金利には低下圧力がかかる
(中略)
MFモデル(マンデル・フレミング・モデル)においては、国内金利の低下のため、資本が自国から外国に流出する圧力がかかり、外国通貨への需要が増加するという追加的な効果が発生する
とあります。

つまり、マンデル・フレミング理論によれば、

1.日銀が資金供給(金融緩和)をすれば金利が下がり、
2.それにつれて外貨需要増加=外貨高=円安の効果がある

ことになります。

それならば、

政府による財政拡大と日銀による金融緩和を同時に行えば、財政拡大による円高という弊害は除ける

ということになります。

 竹中氏や高橋氏がこのマンデル・フレミング理論を用いて財政拡大は無意味と主張するのは、実際のところ、かなりの無理があると言えます。


#なお、「国債を刷れ!」のp.88で
江戸時代は鎖国、つまり閉鎖経済だからうまく行ったのでは、という疑問が生じるかも知れないが、この吉宗のバラマキは金融緩和とセットで行われた。開放経済でもうまく行くと見て良い。
のように書いているのですが、

暴れん坊将軍の政策は、
バラマキ(=積極財政)と金融緩和(=資金供給増加)がセット
ですので、
マンデルフレミング理論に従って考えれば開放経済でも全く問題なかったであろう、と考えられるわけです。


【2】いまや、世界の常識は財政拡大!

 実際、80年代から90年代にかけての「はるか昔」でもなく「固定相場制」でもないイタリアでは、
「失われた10年」の日本以上に「ロジック(論理)を無視して常に財政拡大を指向してきた」
のですが、
公的債務/GDP比で見れば財政は日本よりもずっと健全なままであり、
かつ、
国民の実質所得は日本よりもずっと増えています。

 (このイタリアの事例については「国債を刷れ!」p.257で詳述しています)。


開放経済・変動相場制だからといって財政が効かないということはないのです。

そして、
いまや世界の常識は財政拡大です。

08年の金融危機による景気後退に対して、
世界各国が【図表2】のような財政拡大を計画しています(国際金融協会IIFの08年12月発表資料より)。

図表2 世界の財政拡大計画(IIF資料より)

中国・米国は金額もGDP比も抜きん出て大きくなっています。

そして、世界はつながっているのであり、経済は持ちつ持たれつです。
中国・米国の経済がダメになれば日本も当然タダでは済みません!

もし本当に
 「開放経済では財政拡大は無意味」
 ⇒景気は良くならず、借金ばかりが残るだけ
いずれ中国政府も米国政府も財政破綻するかも
であるのなら、
竹中氏や高橋氏は世界経済を救うため、
胡錦涛主席やオバマ新大統領が巨額の
財政拡大を実施することを思いとどまるよう、
身を挺して説得しに行くべきでしょう。

しかし、
もちろんそんな必要はないし、決してすべきではありません!

なお、
日銀の金融政策(金利の調整など)については「国債を刷れ!」p.218で、政府による財政出動(積極財政)については「国債を刷れ!」第3章以降で具体的に説明しております。

竹中さん(小泉内閣・経済財政政策担当大臣)、高橋さん(安倍内閣・参事官)の歳出削減は大間違い!もっと景気対策を!と思われた方は、↓こちらのリンクのクリックを。
  http://blog.with2.net/in.php?751771
  #ブログランキングに参加しました。ご協力、ありがとうございます!

【「国債を刷れ!」補足集】の一覧はこちらをクリック


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300:タイトル決定

2009/01/19 (Mon) 22:42
タイトルは

【国債を刷れ!「国の借金が大変」というウソ】

に決定致しました!

発売は2月上旬ころになりそうですが、
先行して、本ブログに
【「国債を刷れ!」補足集】
という書庫を新たに設置して、
本で収禄し切れなかった部分を順次掲載してゆきます。

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301:株とGDPとお金の流通量

2009/01/10 (Sat) 21:03
下の図
世界株式指数(先進23ヶ国:MSCI World Index
世界の名目GDP(世界銀行 "Quick Query"
米ドル通貨流通量Monthly Historical Money Stock Tables, Components of M1 (NSA), FRB

推移です。




"株価は長期的には利益に連動する"

というのは、米国フィデリティ社を世界有数の投資信託運用会社にした「株の神様」、ピーター・リンチの言葉です。

そして、
世界全体の「利益」に相当するのは世界の名目GDP(企業の所得+個人の所得)です。

09年の世界の名目GDPは最新の予測で見ても恐らくプラスです(例えば08年12月の国際金融協会IIFの予測では実質GDPマイナス0.4%ですが、インフレ率を考えれば名目では辛うじてプラスとなります)。

グリーンスパン前FRB議長は今回の経済危機を「100年に一度の危機」と言っていますが、

バーナンキ現FRB議長「大恐慌とは比較にならない」「米国は豊かさとともに多様性を持ち合わせており、現在の減速から急速に回復すると期待している」としています([ロイター 08年12月1日])。

大恐慌のときは、当時の米国フーバー大統領は何もしませんでした。それで米国の名目GDPは4年で約半分になりましたが、

現代の世界各国は大規模な経済政策・財政拡大を実施し、または計画しています(世界の財政拡大については本ブログ「世界の中心で財政出動を叫ぶ!」)。

まさに、バーナンキ議長が言うように「大恐慌とは比較にならない」のです。

ということで、
世界の利益≒名目GDPは恐らくは減らないし、仮に減ったとしても大恐慌のように「4年で約半分」のようなことはまずあり得ません。

そして、世界の名目GDPは、これからも基本的には伸び続けて行くと考えられます

利益が減らないのに株価がもの凄く減っている。

そして、

"株価は長期的には利益に連動する"が正しい
とすれば、
いずれ株価は必ず回復します。

 上のグラフでは米ドル(現金)の流通量も示しています。

 この危機でも、カネの量は減るどころかむしろ増えています

 株が下がっていると、損をした人の話ばかりに注目が集まりますが、誰かが損をしても、必ずどこかで他の誰かが得をしているものなのです。

だから、
株価が暴落しても、お金の量は減りません

株価が下がればかならずどこかで、割安感が出て、カネを持っている人たちは買いに走ることになり、いずれまた株価が上昇してゆくことになります。
 
GDPが減っていないのに、株価がどーんと下がっている今は、一つの買い場であると考えられます。

何を買うか?

 GDPに注目するなら、やはり株価指数に連動するファンド、インデックスファンドではないでしょうか。

特に、
今は円高なので、外貨建ての外国の株式指数ファンド通貨安、株安の二重の意味で割安であると考えられます(上記のMSCIのWorld Indexに連動するファンドもあります)。

ただし、買うとしても、
予定の金額を全て一度に投入するのはお勧めしません

株価というものはいずれ反転するにしても、どこで反転するか、どこが底かなんて、誰にも分かりません。だから投資に回す予定の金額の1/5とか1/3とか、少しずつ買うのが良いでしょうね。

では、売り時は?

 例えば、買った後の最高値から2割下がったら売る、とかそういったルールを持っておいても良いかもしれません。

(もちろん、上記の買い方、売り方は一つの例に過ぎません。念のため…。)

なお、「誰かが損をすれば、必ず他の誰かが得をしている」と言う話については、本の方でもっと詳しい話を載せる予定です^^


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302:タイトル・表紙案

2009/01/10 (Sat) 17:14
久しぶりの投稿です・・・

下の画像は私の作ったタイトルと表紙の案たちです。
すでに全てボツになっておりますが^^;

ちなみに、私の友人知人の間では
案②が好評ではありました。

実際のタイトル&表紙は今月中にはお見せできるかと思います^^

案①




案②




案③




案④




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303:あけましておめでとうございます!

2009/01/01 (Thu) 00:29
以下は、
出版準備を進めている私の本の「はじめに」の案の一つです。
この案はすでにボツになっていますが、
本ブログの年始のあいさつにふさわしい
ような気がしましたので、ここに掲載してみることにしました:



はじめに

 「The Other Side of Midnight(邦題:真夜中は別の顔)」―― 2007年に世を去った米国の流行作家シドニィ・シェルダンの往年の大ヒット作のタイトルです。この「Midnight(真夜中)」というのは第二次世界大戦を指すそうなのですが、現在の「100年に一度」と言われる経済危機も、まさに「真夜中」と言えるのではないでしょうか。しかし、さまざまな経済指標をよくよく調べてみると、この「真夜中」の「別の顔」、つまり、明るい側面が数多く見えて来るのです。

 たとえば、株価が下がり続ける中でも、世の中全体のお金(現金+預貯金)の量は減っておらず、むしろ増加しています。そのことは、現金と預貯金の量を示す各国中央銀行のマネーストック統計(以前はマネーサプライ統計と呼ばれたもの)を見れば明らかです。経済危機といわれるような状況のときは、損をした人々にばかりに注目が集まり、その反対側で得をしている人々については見落とされがちになります。しかし、株取引であれ、このところ取り沙汰されている「サブプライムローン」や「CDS」を組み込んだ「証券化商品」などの複雑な金融取引であれ、お金というものは損をした人から得をした人に移って行くだけであって、総額では決して減ることはないのです(詳細は本書第3章にて)。

 また、そのような経済状況下では、各国政府は支出を増やすことで景気刺激をしようとします。この場合には、国の借金や財政赤字が増えることが問題視されることになりますが、国の借金が増えると、民間の資産がそれにつれて増えることになります。これは、日本なら日銀「資金循環統計」の時系列データを見れば明らかです。日本の場合、90年代初頭のバブル崩壊以降ですら、国の借金の増加額よりも民間の金融資産の増加額の方が大きくなっています。国の借金が驚異的な金額になっているという「真夜中」においても、別の顔、民間の金融資産がそれ以上に驚異的に増えているという明るい側面があるということです(詳細は本書第1章にて)。

 そして、政府が支出を増やして財政赤字が増えるという負の側面についても、その分だけ民間の収入も増えるという正の側面があるということは見逃せません。この「政府の支出増加=民間の収入増加」の関係を発展させていくと、実は「政府支出を増やすと却って財政は健全化する」という理論が成り立ちます。しかも、これは理論だけの話でなく、過去に、というよりは現在進行形で、世界各国で何度も実際に起こっている現象です(詳細は本書第3章以降にて)。

 さらには、よくよく経済指標データを検証してみると、日本は景気刺激をやる上で、本来、世界で最も財政面での余裕がある国であることが分かります。これに関しては日本のインフレ率が世界で最も低い水準にあることが鍵になりますが、このことも「国の借金が大きい」ということに対する「別の顔」なのです(詳細は本書第1章にて)。

 明けない夜はなく、上がらない雨はありません。そして、克服できない経済危機というものも決してないのです。本書では、そのことをさまざまな経済指標データを用いて明らかにしています。そして、日本というこの小さな島国が本来はいかに力のある国かということも。「The Other Side of Midnight」―― いまこそ、「真夜中」の「別の顔」をしっかりと見据えるときであります。
                      平成20年12月8日
                      廣宮 孝信 (ひろみや よしのぶ)

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