結論から言えば、
一時所得をもらうそれぞれの家庭の事情によって、恒常所得仮説が成り立つ場合もあるし、成り立たない場合もあります。
「人生色々、会社も色々、家庭の事情も色々」です。
一時的な所得について、
色々なケースを考えて見ましょう。
たとえば、プロ野球選手。
毎年の契約更改によって、基本的には年収はコロコロ変わりますよね。
怪我でもすれば、年収はガクンと落ちます。
極端な言い方をすれば、毎年の収入がほとんど一時所得的な性質ですね。
こんな給与体系ですが、プロ野球選手は、みんながみんな、収入を全部貯金に回すなんてことがあるでしょうか?
去年引退した、清原さんをイメージしてみてください。
私のイメージでは、
清原さんは夜な夜な、大阪の北新地で後輩の選手の皆さんを引き連れて飲み歩いているようなイメージです
勝手なイメージですが、私の知人はその飲み歩いている様子(夜な夜なかどうかは別として)を目撃してたりもします。
この豪快な感じの清原さんが、
「一時所得」をちまちま溜め込んでいると想像するのは、私には難しいです^^
むしろ「宵越しの銭は持たねえ」というイメージがピッタリではないでしょうか?
あと、
芸能界も基本的には収入の安定しない世界だと思いますが、
俳優の津川雅彦さんは、
本当に「宵越しの銭は持たねえ」を信条に生きていらっしゃるそうです。
これは、そうでないと、俳優として魅力がなくなる、というお考え方かららしいです。
一時的な所得だからといって、みんながみんな消費に回さず、貯蓄するというようなことはあり得ないわけです。
上記はプロ野球選手や芸能人という特殊な例(もちろん、野球選手や俳優の皆さんが全て「宵越しの銭は持たねえ」なことは無いでしょう)ですが、
では、もっと一般的な例を。
私が前に務めていた会社の同期は、ほとんど既婚者&子持ちですが(私はいまだ独身ですので、この中ではマイノリティーです(笑))、
例えば二人の子を持つ、普通のサラリーマンである父親は、定額給付金について、
「いままで買おうと思ってもなかなか買えないでいた、オーブンレンジを買おうと思っています」
と言っていました。
子供がいると、どうしても普段の支出がかさむので、
絶対必要とまで言えないものの購入はどうしても後回しに回っていたとのことです。
なお、
私の大学や会社時代の同期は、「宵越しの銭は持たねえ」タイプの人が多数派でした。
中には、
「私はどうしても貯金できないから、家を買って無理矢理ローンを組んで「家」という資産の形で『貯金』した方がいいかも、と思ってまんねん」
というツワモノも。
彼らが「一時所得だから貯蓄に回す」なんていう行動をとることはまずあり得ないでしょう。
私の場合は…
以前、高級フレンチ・レストランで高級ディナーをと思っていましたが、
最近は美味しい豚の角煮を作るべく、圧力鍋でも買ったろかとも思っています。
こないだ普通の鍋でやってみたのですが、なかなか肉がとろけるようにはできなかったものでして。
圧力鍋なんて不要不急のものは普通なら買おうと思いませんが、
降って湧いてきたような「定額給付金」なら買ってみようかとも考えることもあったりするわけです。
それはさておき…
定額給付金はその実質は「減税」です。
アメリカではブッシュ政権下で、3度減税(所得税の還付)を行いました(もしかしたら、私が把握してないものがあるかもしれませんが、私の知る限り3度)。
(1)1度目は富裕層中心の減税
(と言っても、普通に税率を下げる減税なので、
高所得者ほど減税額が大きくなる)
では、減税額のうち消費に回ったのはわずか2割とされています。
(2)2度目は子供のいる世帯に対するもので、
減税還付額のうち9割が消費に回ったとされています。
(3)3度目は、サブプライム危機への対応での減税で、
低・中所得層が対象でした。
これは、(1)と(2)の中間的なものと考えられるため、
5割程度は消費に回るかと思いきゃ、
どうも1割程度しか消費に回らなかったようです。
さて、
(3)については、どう考えるべきでしょうか?
これは、
マクロの経済状況も加味して考える必要がありそうです。
実は(1)の減税は2001年の7~9月でしたが、ニューヨークダウ平均株価が下落している中で行われました。
(2)は逆にイラク戦争後の03年7~8月で、株価が上昇中の中で行われました。
(3)は、株価下落中に行われました。
更には、(3)の期間の(1)と(2)との決定的な違いは、株価(図1)だけでなく、住宅価格(図2)の下落も同時に起こっていたことです。
株価が下落しているというのは、端的に言えば、景気が良くない状況ですが、こんなときは、景気が良いときに比べれば、家計部門は消費を抑えて貯蓄を増やそうとする心理が働くと考えられます。
さらには、
住宅価格の下落が起きていると、アメリカでは特に消費が落ち込むと考えられます。
というのは、
アメリカではホーム・エクイティ・ローン(住宅担保ローン)なるものがあって、
家の評価額を担保に、使途を特定しないローンを組むことが可能であるからです。
家を担保にクルマを買ったり、ボートを買ったり、ケチャップを買ったりしても良いわけです。
08年は住宅価格が下落を始めたわけですから、
家の評価額がローン残高以下になる家庭もたくさん出たでしょう。
担保価値(=家の評価額)がローン残高を下回った分は即返済しないといけないので、
こんなときに行われた減税還付による「一時所得」があれば、消費に回すよりも借金の返済に回すのは当たり前ですね^^。
これでも、
政府の施策が全く効果が無いかというと、そんなことはないでしょう。
確かに、消費に回らなければ乗数は落ちますが、
政府の借金が増えた分、民間の借金は確実に減ります。
民間の借金が減るのが早ければ早いほど、後々の消費の復活も早くなるでしょう。
誰かの借金が増えれば、
1.他の誰かの資産が増えるか、あるいは、
2.他の誰かの借金が減るだけです。
結局は世の中全体の純資産が減るわけではありません。
とまあ、
それはそれとしまして、
結局、一つ一つの家庭を見てみると、恒常所得仮説が成り立つかどうかは、
・受け取る人のお金に対する考え方や人生観、家族構成によって、
・さらには、そのときのマクロ経済の状況によって、
成り立つ場合もあれば、成り立たない場合もある、ということです。
あと、乗数についてもう少し付け加えますと、
「定額給付金」は単なるお金の移転で生産活動を伴わないなので、公務員の給料や公共事業と違って、政府から支出した分がGDPにカウントされない分、乗数は不利になります。
定額給付金は、その効率というか、効果については、必ずしも満点と言えるものではないでしょう。
もっと他の良さそうな政策に使うべきだ、と言われれば、間違いなくそうだ、言えるでしょう。
ただ、
同じような政策はアメリカでも、他の国々でも行われています。
また、経済政策はこれ一本だけでなくて、他の政策もやっているわけです。
政策の一部であって、全体ではありません。
話は次の記事に続きますが、
「一時所得は消費の増加につながらない」という「恒常所得仮説」は検証されていない単なる仮説。これで財政出動が利かないというのは無理があるでしょう、フリードマンさん、と思われた方は、↓こちらのリンクのクリックをお願い致します