当面、ツイッターのみ更新し、ブログ更新はどうしてもツイッターでは表現しきれない重要なニュースがあったときだけ、というようにする方針です。 ※私のツイッターは、当ブログのPC版の左上に表示しているツイッター窓で見て頂くか、 「twitterでフォローして下さい」ボタン を押してツイッターを開いてみて下さい。 『2016年、異次元大恐慌が始まる』 飛鳥新社 刊 好評発売中 ちなみに、私自身が考えていたタイトルとオビの
原案 はというと、
タイトル 原案:『世界大恐慌2.0 ――世界と日本を激変させる、歴史的大波涛』 オビ文言 原案:「資本主義でも、共産主義でも、民主主義でもない、異次元な新時代の幕開け」 というような、もう少し穏当(?)なものでありました。少なくとも
「大恐慌=この世の終わり」ではありません! ※
「世界大恐慌2.0」 というのは、次に起こりそうなのは
「1929年世界大恐慌のバージョンアップしたもの」 になりそう、という意味合いです。
→なぜそうなるかというのは、経済的なカネ勘定の問題よりは、
政治的な権力構造の問題 ではなかろうか、という仮説になります。
目次項目の一覧はこちら さて、本題 です: 先週末は南仏ニースで起きたテロに引き続き、トルコの軍事クーデター未遂事件が起こるなどの大波乱でしたが、今回はトルコの件についてまとめておきたいと思います。
結論としては
「トルコは今回の軍事クーデター未遂事件で民主主義が却って後退しそう」 ということになります。
今回の件、日本語メディアでは日経が結構充実しているように思いましたので、とりあえず日経の記事を引用しておきます(日本語ソースがあると本当に楽です^^;):
トルコ首相「反乱制圧」 将校ら2800人拘束、260人死亡 http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM16HA5_W6A710C1000000/?n_cid=NMAIL003 2016/7/16 18:54 (2016/7/16 23:38更新)
日経新聞
【イスタンブール=シナン・タウシャン】トルコで軍の一部勢力が15日夜(日本時間16日未明)から16日にかけてクーデターを試み、最大都市イスタンブールや首都アンカラの主要道路や国営テレビ局を一時占拠した。
クーデター勢力と治安部隊の交戦で、市民を含め260人以上が死亡した。 ユルドゥルム首相は16日の記者会見で「反乱は鎮圧された」と宣言。
関係した将校ら2839人を拘束 したと明かした。
エルドアン大統領は長期にわたり強い権限を握り、軍の弱体化を進めてきた。今回の反乱はその反発とみられる。 事前に察知できなかった政権の打撃は大きい。トルコが内政問題に追われることになれば、隣国シリアの和平問題や、イスラム過激派組織
「イスラム国」(IS)の掃討作戦にも影響が及ぶ可能性がある。 首謀者は明らかではないが、
現地メディアによると、空軍の司令官級が関与したとの情報もある。 クーデター勢力はイスタンブールのボスポラス海峡にかかる2本のつり橋を封鎖した。アンカラで軍トップの参謀総長を一時人質にとり、国会議事堂をヘリコプターで空爆した。国営テレビを占拠し「国の権力を完全に掌握した」と宣言。戒厳令と外出禁止令を出した。 地中海沿岸の保養地で休暇中だったエルドアン大統領の不在を狙った。エルドアン氏はスマートフォンの動画付き通話機能を使い、地元テレビ番組を通じて国民に街頭や空港に向かい軍事クーデターに抵抗するよう呼び掛け、多数の市民が呼応した。 クーデター勢力は街頭に出ていた市民に向け発砲したとの報道もある。ユルドゥルム首相によると市民や警察官ら161人が犠牲となった。負傷者は1400人以上に上ったもようだ。軍の暫定参謀総長はクーデター勢力の104人を殺害し、市民の犠牲者は47人と明らかにした。
ロイター通信によると、当局はクーデターを企てた疑いで司法関係者10人を逮捕。さらに140人を捜索中と報じた。
イスタンブールのアタチュルク国際空港に着いたエルドアン氏は「(首謀者は)重い代償を支払う」と述べた。休暇先で自身を暗殺する企てがあったことも示唆した。
アンカラでは軍の戦闘機がクーデター勢力側のヘリコプターを撃墜した。クーデターが失敗に終わる可能性が高まり、ギリシャ北部には16日、亡命を求める兵士8人の乗ったヘリコプターが着陸した。トルコ外務省は8人を送還するようギリシャに求めている。
空港閉鎖によりトルコ発着の便は大幅に混乱をきたしたが、トルコ航空は16日午後にイスタンブールの定期便発着を再開すると表明した。停止していたボスポラス海峡の海上交通も再開した。イスタンブール市内では街頭に出ていた市民らが引き揚げ、日常生活を取り戻しつつあるという。国会も同日招集され、今後の対応の議論が始まった。
政府内では事件をエルドアン氏の政敵である米国在住のイスラム教指導者、ギュレン師に近い軍幹部の仕業とする見方が出ている。ギュレン師はクーデターを非難し、関与を否定している。
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軍人が3千人近く逮捕されたのに加え、
別の日経記事 では「判事ら司法関係者2745人の拘束」をトルコ当局が命じたともあります。
クーデターに参加した将校や兵士らについては、ある程度容易に区別がつきそうなものですが、判事などの司法関係者3千人近くの身柄拘束というのは少々引っ掛かりを覚えます。
上記に引用した日経記事によれば、大統領側はクーデターを未然に察知できていなかったようです。それなのに
たった一日で3千人もの司法関係者の身柄を拘束するだけの証拠をどうやったら揃えられるものなのか 、と。
西側諸国の要人はこぞって「選挙で選ばれた政権を支持し、軍事力を使ったクーデターを非難する」という声明を出していましたが、たった一日で3千人もの司法関係者の身柄を拘束する政権は、民主主義的なのか、どうか。 2014年にウクライナで選挙で選ばれた大統領がクーデターで追い出されたときの西側諸国要人の反応とは全く逆のような気もしますが、それは大人の事情・・・いや、政治的な理由があるから、ということでしょう。
そして今回、
トルコ軍の一部が決起した理由の一つと見られるのが、「民主主義を守るため」という、ある意味、かなり逆説的なものであった ようです。
トルコ、軍の非主流派が決起か 大統領に不満 排除を察知 http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM16HBP_W6A710C1NN1000/ 2016/7/17 0:50
日経新聞
【ベイルート=岐部秀光】トルコ軍の一部は
なぜ、このタイミングでクーデター を企てたのか。理由を読み解く鍵になるのが、
8月に迫っていた軍の大佐クラス以上の人事を決定する「高等軍事評議会」 の存在だ。
シンクタンク「ジャーマン・マーシャル・ファンド」の研究者でトルコの外交安保政策に詳しいオズギュル・ウンルヒサルジュクル氏は今回のクーデター未遂劇を「ギュレン系の軍幹部が力を失う前に権力奪取を試みた可能性が高い」と指摘する。
クーデターを試みた勢力は議会への爆撃や群衆への発砲など、従来の軍の行動規範からかけ離れた行動に出た。軍が一丸となった過去のクーデターとは異なり、非主流派による蜂起だったとの見方を裏付ける。 一方、軍トップの参謀総長を拘束し、国際空港を閉鎖。戦闘機やヘリコプターを確保するなど、作戦は包括的で周到に準備されていた。高位の軍幹部の関与がなければ実現は難しかったとの見方も根強い。 イスラムのカリフ制を敷く政教一致のオスマン帝国崩壊で建国したトルコは政教分離を国是としてきた。
初代大統領のムスタファ・ケマル (注:
ムスタファ・ケマル・アタテュルク 。イスタンブールのアタテュルク空港の名前の由来になっています)
はカリフ制を廃し世俗主義を推し進めた。軍はそうした体制の守護者を自任してきた。 しかし近年は
エルドアン大統領率いる与党の公正発展党(AKP)がイスラム主義色の色濃い政策を打ち出していた。 軍の一部は不満を強めたが、エルドアン氏は欧州連合(EU)の外圧を使い意に沿わない軍幹部を追放し、軍の影響力を弱めてきた。 テロ対策でもエルドアン氏の対応に軍の不満がくすぶっていた もようだ。政府は少数民族クルド人の非合法武装組織クルド労働者党(PKK)に対する掃討作戦を進めている。しかし、PKKに対する強硬な対応が支持者を追い込み、かえって激しい報復テロを招いているとの説がある。掃討作戦にともなう兵士の犠牲も膨らんでいた。
エルドアン大統領の強権批判は軍以外にも広がる。2013年にはイスタンブールでエルドアン氏を批判する大規模なデモが発生した。その後、政府は与党の政策に批判的な人物への締め付けを強め、政府に批判的なメディアへの弾圧も強めた。エルドアン氏は5月には新憲法制定に慎重だったダウトオール首相を辞任表明に追い込んだ。 クーデターを阻止したことで、エルドアン大統領は軍の影響力を弱める方針をさらに進め、反政府勢力に対しても一段と強硬な対応をするとみられる。大統領権限を強化する新憲法制定の必要性を訴えるのは確実で、強権的な統治手法に一段と傾斜する可能性がある。 -----
というわけで、
トルコにおいては軍事クーデターの失敗が、却って民主主義の後退となりそう です。
それでも、
何故に西側諸国の指導者がこぞってエルドアン大統領を支持するかという背景 については、次のような話が参考になるでしょう:
「影のCIA」 と呼ばれるシンクタンク
「ストラトフォー」 の代表、
ジョージ・フリードマン氏 (ユダヤ人)の2011年の著書、
『続・100年予測』 によれば、
・アメリカ大統領が取るべき基本方針は、世界の各地域において、アメリカの安全保障を脅かすような大国が出現しないよう、各地域における勢力均衡の維持を徹底すること。 つまりラテンのことわざ、
「分断して統治せよ (divide and conquer もしくは divide and rule)
」 ですね。
・ブッシュ政権による「テロとの戦争」は間違い。 テロは手段なのでテロと戦うというのはおかしい。本当はイスラム教スンニ派の過激派との戦いであり、テロはなくならないので、ほどよく抑制する程度が良い。
全資源をテロとの戦いに注ぎ込むのはアメリカの安全を保障する、各地域における勢力均衡、「分断して統治せよ」に反する。 ・この「テロとの戦い」の過程でイラクのサダム政権を崩壊させたのは痛恨の過ち。この地域の勢力均衡、イランとイラクのバランスが完全に崩れてしまった。
仕方ないので、大統領は30年いがみ合ってきたイランと和解し米国にとって重荷であるイラク駐留米軍を撤退すべし(この本が書かれたのは2011年なので、イランとの和解については完全に予言的中、というわけです。というかオバマ政権はこの方針に沿って行動した、とも言えますが)。 ・ブッシュの「テロとの戦い」の最大の間違いは、これによってロシアの復活を許してしまったこと。イラン、ロシアとの勢力均衡のためには、長期的に大国となりそうなトルコを取り込み、トルコを徹底的に支援してトルコの経済と軍事力を強化させるべし。 つまり、
ロシアとイランを抑えるために、トルコの政治的安定はアメリカの世界戦略にとってとてつもなく重要 である、ということになりそうです。
上記のフリードマン氏『続・100年予測』には、
日本 と
中国 についてもかなり重要なことが書いています。
アメリカ大統領が取るべき方針は、東アジアにおいては、日本と中国の勢力均衡を維持すべし 、というものです。
弱すぎるほうは支援し、強すぎるほうは抑えることにより均衡させ、どちらか一方が強くなりすぎて東アジアの覇者となり、アメリカに挑戦して来るようなことのないように管理する、というわけです。
アメリカが、共産国であり、ある意味では明確に「敵」と言える中国に対し、これまで信じがたいほどに甘かった理由、同盟国日本に対しては、時としてことのほか厳しいこともあった理由、そして最近になってようやく中国に厳しくなってきた(ように見える)理由は、アメリカがこれまで、そのような地域勢力均衡策を多少の揺らぎを持ちつつも取り続けてきた、というところにありそうです。
さて、
トルコ に戻ります。
ロシアのRTの記事 Local authorities block access to air base in Turkey that houses US nukes https://www.rt.com/news/351606-usa-incirlik-base-turkey-blocked/ Published time: 16 Jul, 2016 13:59
Edited time: 16 Jul, 2016 19:15
によれば、
トルコの米空軍が駐留する基地には、米軍の核兵器が配備 されているとのことです。
今般のクーデター騒ぎによるトルコの混乱は、米国にとって、絶対に長引いてはならないものであった ものと思われます。
なお、
今回のクーデター騒ぎ、実はかなり際どかった のではないかと思わせるような記事が
イギリスのサンデー・エクスプレス紙 に出ています(もともとの情報ソースは米NBCテレビですが)。
Did Erdogan try to claim asylum in GERMANY? Claims Merkel REJECTED Turkey leader's plea エルドアンはドイツに亡命しようとしたのか? メルケル独首相はトルコ指導者の懇願を拒否 http://www.express.co.uk/news/world/690120/Turkey-coup-claims-Erdogan-claimed-asylum-Germany-rejected-Merkel PUBLISHED: 13:04, Sat, Jul 16, 2016 | UPDATED: 13:19, Sat, Jul 16, 2016
Sundy Express
TURKISH dictator Recep Tayyip Erdogan tried to claim asylum in Germany at the height of a military coup against his government but the request was REFUSED by Angela Merkel, it was claimed last night.
トルコの独裁者レジェップ・タイイップ・エルドアンは、彼の政権に対する軍事クーデターが最高潮にあった際、ドイツに亡命申請しようとしたが、アンジェラ・メルケル独首相に拒絶された。
※以下、全訳はあまりにも時間と労力がかかるので、記事の要約だけしておきます:
NBC Newsは、
米軍の情報源によると、エルドアン大統領が登場していたプライベート・ジェット機からドイツに亡命申請したが拒否された と報じた。同大統領はイスタンブール空港にたどり着く前、その次の亡命申請先としてイギリスを検討していたという。
警官隊と反乱軍が戦闘していたために着陸できず、イスタンブール上空で40分も待機していた間にそのような亡命申請をしていた可能性がある。その亡命申請は検証のしようがなかったため、数十分のあいだ懐疑的に扱われていた。
トルコの情報源は、この数ヶ月、エルドアン氏がクーデターの可能性にますます神経質になっており、最悪の事態に備えて詳細な脱出計画を練っていたことを示唆 している。
反乱が起きているさなか、エルドアン氏はiPhoneのフェイスタイム(テレビ電話アプリ)を通じての風変わりなインタビューを受けていた。カーテンで仕切られた部屋にいる様子が写り込んでいたが、それはエルドアン氏がプライベート・ジェット機に搭乗中であった可能性を示している。 -----
この
サンデー・エクスプレス紙 の記事にある
「iPhoneのフェイスタイム(テレビ電話アプリ)を通じての風変わりなインタビュー」 というのが、
冒頭に引用した日経記事 の
「エルドアン氏はスマートフォンの動画付き通話機能を使い、地元テレビ番組を通じて国民に街頭や空港に向かい軍事クーデターに抵抗するよう呼び掛け、多数の市民が呼応した」 ということになります。
日経は「地元テレビ番組」と書いてますが、実は
米CNNのトルコ局の番組 です。その際の動画は下記の
CNN記事 で見ることができます:
Turkey's beleaguered president addresses country on FaceTime トルコの窮地に陥った大統領、フェイスタイムで国民に向けて演説 http://money.cnn.com/2016/07/15/technology/turkey-coup-facetime-interview/index.html July 15, 2016: 7:04 PM ET
CNN
このCNNにおけるiPhoneで中継された演説によって、多数の民間人が反乱軍に立ち向かったことで、反乱軍は手足を縛られた格好になったことが、エルドアン大統領側の勝利にとって、かなり大きかったようです。 反乱軍は基本的には、民主主義を守るという大義名分で反乱を起こしたため、本気で民衆を攻撃するわけにもいかず (民間人から集団暴行を受けた反乱軍兵士もおり、仕方なく反撃することで民間人の死者も出てしまったのですが)
、諦めて投降し、警察に逮捕されたようです。 そうでなければ、3千人もの兵士がこうも簡単に諦めていなかったのではないかと思われます。
RTの記事によると、
反乱軍が国営放送局を占領してニュースキャスターに読ませた宣言文 は以下のようなものでした:
“Turkish Armed Forces have completely taken over the administration of the country to reinstate constitutional order, human rights and freedoms, the rule of law and the general security that was damaged,” 「トルコ軍は、憲法による秩序、人権、自由、法の支配、損傷している全般的な安全保障を回復するため、完全に政権を掌握した」 以上、今回のトルコ軍事クーデタ未遂事件についてまとめると、 ・トルコ軍には初代大統領ムスタファ・ケマル・アタテュルク以来、世俗的(非宗教的)な民主主義体制の護持者を自負する伝統があった ・エルドアン政権は、「与党の政策に批判的な人物への締め付けを強め、政府に批判的なメディアへの弾圧も強め」るなど言論の自由を制限し、権力の集中と強化を図り、また政教分離からイスラム主義色の色濃い政策への回帰を進め、さらに軍部内の反政権的な勢力の排除を進めていた。 ・それに対し、軍の一部が反発し、用意周到に今般のクーデターを実行に移した。 ・不意を突かれたエルドアン大統領は一時はドイツやイギリスに亡命しなければならないというほどに追い詰められていた。が、ドイツに断られ、退路が断たれた形になったことで却って決意が固まったのか、米CNNのトルコ局の番組でiPhoneのフェイスタイムを通じて一般国民に対し、街に出て反乱軍に立ち向かうよう呼びかけた。 ・多数の国民が大統領の呼びかけに応じた。一般国民が「独裁者エルドアン」を見捨てて、人権と自由の護持者である自分たちに味方に付いてくれると計算していた反乱軍にとって、それは想定外のことであり、このことが功を奏してエルドアン大統領側の起死回生の逆転勝利につながった。アメリカのテレビ局、アメリカ生まれのスマホとアプリがエルドアンを助けた、つまり、アメリカがエルドアン政権を助けたという格好。 ・軍人3千人弱が逮捕されただけでなく、判事ら司法関係者3千人弱までもが一晩で身柄拘束という格好になった。反乱に加担したかどうかについては、軍人はその場にいて投降したのであれば区別が簡単につくが、司法関係者3千人弱の身柄拘束については、一体どんな証拠がこのような短時間にそろったのかという疑問がぬぐえない。 ・西側諸国の指導者が異口同音に素早くエルドアン大統領支持を表明した背景には、対イラン、対ロシア戦略や、トルコに配備している米軍の核兵器の安全の確保など、アメリカの世界戦略が関係しているものと思われる。 というようなことで、
軍事クーデターの失敗が却ってトルコの民主主義の後退に拍車をかけそう 、というわけです。
さて、ここで
私が著書『異次元大恐慌』で提示した米覇権退潮の基準: 1.TPPが最終的に不成立となって立ち消えになる 2.タイの軍政が継続し、ほかにも民主体制から軍政に転換する国が増える 3.ロシアまたは中国など西側以外の国が主体となってシリアなど紛争地域の和平を実現させる 4.通貨当局の金準備が、世界全体で、あるいは、新興国+発展途上国の合計で増加傾向を続ける について検討してみたいと思います。
上記の1.から4.は、
いずれも進行中 と言えます。
1.のTPP については、アメリカの2大政党の大統領候補が両方ともいまのTPPに反対。
ヒラリー・クリントン氏は「水準を満たさないTPPは拒否すべきだ」としており、軌道修正の余地があるようですが、ドナルド・トランプ氏は「米国の離脱」を主張しています。 TPPの最終的な消滅の可能性は高まっている と言えるでしょう。
2.の「タイの軍政が継続し、ほかにも民主体制から軍政に転換する国が増える」に関して、今回のトルコの件については、民主主義の後退が進みそうという点で強化材料 であると言えます。
3.の「西側以外の国が主体となってシリアなど紛争地域の和平を実現」については、ロシアの存在感が高まる一方です。 トルコが今般のクーデター騒ぎでしばらく混乱が続くなら、アメリカとしてはますますロシアに頼らざるを得なくなるでしょう。
4.については通貨当局の金準備が、世界全体で増加が続いています。 5日前の日経記事:
中銀の金保有、増勢続く 中ロ、通貨の信用力維持狙う 価格押し上げ要因にも http://www.nikkei.com/article/DGKKZO04722260R10C16A7QM8000/ 2016/7/12付
日本経済新聞 朝刊
世界の中央銀行の金保有量が増え続けている。特に中国とロシアがドルとユーロに代わる外貨準備として大幅に積み増し、自国通貨の信認維持を狙っている。 英国の欧州連合(EU)離脱決定を受けて民間の投資意欲も高いなか、中銀の買いが価格の押し上げ要因となりそうだ。
金の調査機関、ワールド・ゴールド・カウンシルが先週に公表した集計では、
全中銀の金保有量は約3万2800トンと1年前に比べて2.7%多い。 …
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私の『異次元大恐慌』にける分析の要旨は、 ・アメリカの覇権(アメリカ一極集中)が終わろうとしている。とはいえ、アメリカはこれからも世界の有力な国であり続けるが。 ・各国で国家主権強化の方向性を持った権力構造の転換が起こりつつある。 ・『異次元大恐慌』が起きるとすれば、それは政治的に起こるのであり、『異次元大恐慌』が起きたならば、上記のような権力構造の転換が進捗しやすくなる ということになります。 (決してほかの「暴落本」の著者のようにやみくもに毎年暴落が起きるという本を出したいとか、そんなことは一切ありません。こういうことをどなたかアマゾン等のレビューで書いていただけるとありがたいのですが^^;)
さて、先週後半は連日、ニューヨークのS&P500指数やダウ平均(DOW30)指数が史上最高値を更新 しました。全然暴落しないじゃないか、と言われれば確かにそうですが、ニューヨークに上場しているすべての株式をカバーする指数である NYSE Composite指数は昨年の最高値を更新していません。 これは、安全な大型株に買いが集中し、リスクの高い小型株は相対的に敬遠されている ことの現れ と思われます。
NYSE Composite指数には米国外の企業の株も入っていますので、
米国の小型株指数であるRussell2000指数を見てみてもやはり、直近は最高値を更新できていません。 以下に、NYSE Composite指数が昨年に最高値を更新して以来、直近までのNYSE Composite、S&P500、DOW30、Russell2000のチャートを示します: 最近の「株高」は、債券などの安全資産に買いが集中するような動き、つまり、不安定な政治経済情勢の反映 という側面も見受けられるわけであります。世界最大の投資信託会社であるブラックロックのラリー・フィンクCEO は先週のS&P500やDOW30の史上最高値につき、
「株式市場が今、この水準になっていることを正当化するに十分な根拠はない」 と述べています。
The market shouldn't be at record highs — CEO of world’s largest asset manager http://www.cnbc.com/2016/07/14/blackrocks-fink-britain-still-faces-recession-despite-boe-holding-rates-steady.html Thursday, 14 Jul 2016 | 9:12 AM ET
CNBC
フィンクCEOの発言の要旨をまとめておくと ・いま株を買っているのは個人ではなく機関投資家。英国のEU離脱投票後の空売りの買戻しが大きい。EU離脱投票後、ETFへの流入は続いているが、通常の投資信託からの流出が続いている (ETFの主要な買手が機関投資家で、通常の投信の主要な買手が個人ということだと思われます)。
・投信解約の動きに加え、債券ファンドへの流入が続いている。これはリスク・オフ(リスク回避)の動きだ。 10年物米国債の利回りが0.75%になっても私は驚かない(現在、同利回りは1.5%程度)。また、55兆ドル(5800兆円)もの現金が積み上がっていると見積もられる。
・中央銀行による異常な資産購入が株価にインフレを引き起こしている。「株価は新高値になるべきとは私は考えない」 ・しかしながら、企業の利益水準が高まれば、この株価が裏付けられるかも知れない。 というようになります。
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いま、大暴落を日米欧を始めとする各国の中央銀行が必至で止めている、というのが実態でしょう。しかし、これをいつまで続けるのでしょうか?それは政治的に永遠に続けられるのか、経済的に永遠に続けられるのか? 仮に「続けられる」とした場合に、各国政府がそれを本当に続けるつもりなら、とっくの昔にいわゆるヘリコプターマネー、つまり、中央銀行による直接貸し出しによる政府の財政出動による景気対策が行われているはずですが、それはいまだ実現に至っていません。 できるか、できないか、で言えば、私は「できる」と思います。 「できる」のであるが、それを実現する意思があるか、ないか、という問題になります。 これまでの流れを見ると、「意思がない」ものと私は見ます。 その動機は、「国家主権強化のための権力構造の転換を進めやすくするため」ということになります。 また、中国やロシアなどの中央銀行は金をせっせと買い込んでいます。世界の通貨当局の合計では08年以降、金を買い越す動きが続いており、それは米ドルへの信認が揺らいでいるということを意味します。アメリカの一極覇権構造を終わらせたいロシアや中国だけでなくアメリカ自身にも、基軸通貨であることで実力以上に強すぎるドル→製造業の弱体化→雇用構造の弱体化→格差拡大 という流れを転換するため、米ドルの基軸通貨からの「離脱」を望む動機づけを持ち得ると私は見ます。ところが、トルコの今回の一件は、「アメリカが自国の覇権維持の世界戦略の必要性から、とりあえずエルドアン大統領を助けた」ようにも見えます。それを考えると、アメリカの覇権はまだまだ続く、ということかも知れません。 しかし一方で、民主主義の後退という面からはアメリカ一極覇権の揺らぎに拍車をかけたとも言えます。 ここで、もう一つアメリカの国民世論という要素も加えて考えてみましょう。 エルドアン政権がますます強権化し、民主主義から遠ざかっていったとき、これまでの米国のトルコとの密接な関係の維持、ロシアやイランを考えればトルコとの密接な関係の維持どころか関係のさらなる強化が必要ですが、米国民はそれを支持するでしょうか?反対するでしょうか? アメリカが「自由な国」を標榜し続ける場合において、アメリカによる一極覇権構造を望まない勢力(例えば、ロシアや中国、イランなどの現政権)が、米国民の対トルコ感情を悪化させる宣伝工作を米国内で仕掛けてきたとしたら、アメリカはそれを防ぎ切れるでしょうか? というように考えると、今回のトルコのクーデター未遂事件は、アメリカによる一極覇権構造を強める、あるいは維持につながる、というよりは、弱めることにつながる可能性が高い というのが私の意見であります。 逆に、
アメリカが覇権を維持すべく、地域ごとの勢力均衡戦略を継続するため、自国における言論の自由を厳しく制限する、つまり、エルドアン政権のような強権体制に移行し、アメリカ自体が民主主義から遠ざかるという可能性もあります。 が、その場合、
世界における民主主義の推進主体であるアメリカから民主主義が消滅 することになります。このシナリオであれば、これはこれで私が『異次元大恐慌』で書いていた
「この800年続いてきた個人の権利の増大という潮流が逆の潮流に転換する」という基本シナリオに一致 することになります。
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